ベテランの職人が高齢で退職していく中、若い人が増え、道具や材料の管理が甘くなってきました。先日、部下が道具を車両で踏みつけて壊してしまい、「使い終わったらちゃんと片付けるように」と指導したいと思ったのですが、厳しく叱ると嫌われそうで強く言えません。若手に、道具を大切に扱ってもらうにはどうすればいいでしょうか。
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道具の管理に関しては、どの会社でも切実な悩み。時代の流れや社会的な背景もあるでしょうが、近年、学校や家庭で物の大切さを教える機会が減っているようです。そのため、若い人ほど道具をないがしろに扱うようになり、安全管理の意識も低下しているような気がします。
整理、整頓、清掃、清潔、しつけの5Sを通じて、安全教育は現場で行っているはず。にもかかわらず、なぜ意識が低くなっているのでしょうか。ポイントは以下の3点です。
1:道具への意識不足
ベテランのように、道具が「大切なもの」という自覚が薄く、扱いが雑になっている。
2:注意がないための勘違い
本来、道具の置き方も次に使う人への配慮が必要だが、誰にも指摘されないた、「この程度でいい」と勘違いしている。
3:無関心からくる誤認
他の人の管理方法に関心がなく、自分のやり方が正しいと誤って思い込んでいる。
結局、教育が必要なのですが、頭ごなしに叱ると若手は嫌がります。ベテランは孫に教えるような姿勢で、丁寧に指導する必要があるのです。
さらに、整理・整頓の見本を見せることが大切でしょう。トヨタ自動車は改善活動の中で、整理を「むだな物がないようにする」、整頓を「必要な物をすぐに取り出すことができる」ことと、わかりやすく示しています。
例えば、道具をしまう箱にその形と同じ穴をくりぬいておけば、置き方を間違えることはありません。足場や単管、パイプなどは専用の棚をつくり、長さを揃えて収納するようにすればわかりやすいです。こうした工夫で、管理が改善した例をいくつかご紹介しましょう。
A社では会社ぐるみで道具の使い方や置き方、保管場所を徹底しました。それに従わないと罰金制で会社に寄付する仕組みをつくり、その成績を張り出したのです。罰金は強制ではありませんが、みんな従っているといいます。ちゃんと整理整頓する社員にはポイントを付与して、貯まったら食事券を配布する。見学に来た他社が感心し、それを見聞きした社員はより物を大切にするようになったそうです。
B社では社内の備品、特に各人の机の引き出しを全員でチェックし、必要以上の文具を回収しました。すると、翌年の文具購入費がゼロになり、その費用を社員に還元。これをきっかけに従業員が節約に協力するようになったといいます。
C社では工事で余った木材や縁石、U字溝などのコンクリート二次製品を倉庫に保管し、別現場で使ったり、近隣の人に日曜大工用として配りました。その活動が好評で、現場では余った材料を大切にして自社に持ち帰って再利用する風土ができあがりました。
このようにちょっとした工夫で無理なく物の大切さを伝え、ムダの解消で浮いた予算を還元すれば、若手のモチベーションも上がるはずです。
構成=吉村克己 イラスト=丸山哲弘
解説
中村秀樹(なかむら・ひでき)
ワンダーベル合同会社 建設コンサルティング&教育
名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路、新幹線の橋梁工事などに従事。
建設マネジメントの実践、建設技術者教育で活躍。