住友建機株式会社SUMITOMO

外国人材の「いい活用」 「悪い活用」

いまや「売り手市場」となった日本の労働事情。
2018年の政府基本方針では、ついに「外国人労働者の受け入れ」が表明された。大きな変革の時を迎えている。
働き手をどう活かすのか、成功と失敗は会社の存続にかかわる。外国人材の「いい活用」「悪い活用」のルールを探ってみよう。

「人手不足倒産」1位の建設業界
会社を救う脱日本人の選択肢

すでに現れている企業間格差雇用は6年で4.3倍に

帝国データバンクの調査によると、2018年上半期の人手不足倒産は件に上り、3年連続で前年同期を上回った。年の調査開始以降の5年半で最多の業種は建設業の139件で全体の33.3%を占める。人手不足倒産の3件に1件が建設業ということだ。

国土交通省土地・建設産業局建設市場整備課・労働資材対策室課長補佐の古曵郁美さんは、建設業が抱える課題を、「建設業は高齢化が進んでおり、全体の約4分の1を60歳以上が占めています。一方で30歳未満は1割程度にすぎません」と指摘する。
60歳代以上の層は、今後10年程度で大量離職することが見込まれ、人手不足はさらに深刻化すると予測される。この状況を打開するため、政府は働き方改革をすすめ、建設業においては長時間労働の是正や週休二日制の浸透などを重点課題として取り組んでいる。

しかし、それだけで人手不足を解決するのは困難な状況だ。
そこで、政府は2018年の基本方針(骨太の方針)で、「外国人材の活用」に言及した。
実際に建設業での外国人材の受け入れは、急激に増加している。年には約1万3000人だったが、年には約5万5000人と、6年間で330.3%の伸びを記録した。全産業の平均伸び率が同・3%であることから建設業の人手不足の深刻さがうかがえる。

外国人建設就労者の受け入れでは、とびが最も多く、鉄筋施工、型枠施工と続く。国籍別に見ると、ベトナムがトップで、中国、フィリピンが続く(年6月末現在)。
「以前は中国が最多でしたが、東南アジア諸国からの受け入れが急激に伸びています」

現地に飛ぶ経営者たち
成功する会社はコストをかける

まだ間に合う即戦力人材の採用法

受け入れる制度には、主に「外国人技能実習制度」(技能実習生)と「外国人建設就労者受入事業」(建設就労者)の2つがある。

技能実習生は、国際貢献の一環として、日本が蓄積した技術などを発展途上地域へ移転することを目的としたもの。現地で一定の研修を受けてから来日するが、日本での技術習得を目的としているため、即戦力には整備による一時的な建設需要の増大に対応するために設けられた制度。新規受入期限は2020年までの時限的なものだ。対象は技能実習を終えた外国人材に限定されるので、一定の技術や日本語能力を備えており、即戦力として期待されている。

いずれの制度も就労希望者は海外現地に設置された民間の「人材送り出し機関」に登録する。同機関は、国内に設置された「監理団体」または「特定監理団体」と連携し、受入企業に人材を紹介する形となる。
ただ、いい人材を探すために、直接現地に赴き、送り出し機関と提携している経営者も多い。

出遅れることなかれ!!
新制度で建設業界はこう変わる

2019年から本格化する人材活用の新潮流

先ほど紹介した「技能実習生」と「建設就労者」であるが、大きな課題がいくつかある。育てた人材が「いつかは日本を出ていかなければならないこと」はその最たるもの。経験や技術にかかわらず、日本で働くためには必ず実習生期間を経なければならないのもネックだ。そして、即戦力化が期待できる建設就労者に関していえば、2020年のオリンピック後に、制度自体が終了することになる。
こうした課題を解決するため、政府では新制度の導入を検討している。

まず、技能実習制度は継続される。日本語を含む技能者教育が各企業に委ねられる点や、条件付きで最長3年から5年へと在留期間が延びることは変わらない。大きな変化は、建設就労者制度に変わり、「新たな在留資格」が設けられることだ。この在留資格では、最長5年の在留が認められる予定で、そうなると、条件付きの技能実習生と合わせ、都合10年、日本で働くことが可能となる。

また、採用に関しても変化する。これまでは、技能実習期間を経て建設就労の資格が与えられたが、新制度では、業界団体(例えば、○○業連合会など)の設ける技能試験・日本語試験に合格すれば、外国人材が日本で働くことが認められるようになる見通しだ。つまり、すでに必要な建設技術を持っている労働者を、すぐに採用できる可能性が高まることになる。現地の建設企業と提携しておけば、技術と経験を持った欲しい人材に、現地で独自の日本語教育を行うことで、スムーズに雇用することも可能になるだろう。日本、海外間で人材の共有をする建設企業同士のつながりはますます増えていくことが予想される。

そして、新旧最大の違いは、さらに「上位の在留資格」への移行が検討される点だ。上位の在留資格とは、現行の「高度外国人材(高度人材)」を指している。これは、研究者などの高い専門性を持つ人材にだけ認められるもので、在留期間の上限はない。また、技能実習やその上の在留資格では認められていない、家族帯同での日本居住も可能になる。こうすることで、外国人材の定着を狙う構えだ。
新制度の施行に関しては、現在審議中であるが、早ければ2019年の4月からスタートする見通し。そうなれば、中小企業も、さまざまな国籍の社員を抱え、育てていくことが当たり前の社会になっていきそうだ。

明暗を分ける、現場の取り組み最前線!

賢い経営者は人材不足とは無縁

「いい活用をしている会社には、“人材確保の好循環”が生まれています」建設コンサルタントの中村秀樹さんは、日本人職人の確保が困難な時代であることを強調しながらそう話す。

通常、外国人一人を育成・採用するコストは日本人よりも高い。しかし、取材の中で見えてきたのは、継続して採用することができれば、採用率と定着率の低い日本人向けの求人を出し続けるよりも、費用対効果はよいということだ。
「関東地方で基礎工事を専門にしているA社では、活用をはじめて、数年で黒字に転換しました。自社だけで捌ける仕事量が増え、外注費を抑えることができたのです。大手ゼネコンからの受注も多いのですが、今や社員の半数が外国人材です」

同社の経営者は、ハローワークでも、求人サイトのアルバイト募集でも一切、職人が集まらず、「人手不足で悩み続けていた」というから、その効果は計り知れない。ただし、この例はよい活用をできているゆえのものだ。
東海地方で土木工事を行うB社では、過去10年にわたって、外国人材の採用を行っている。B社を例に、中村さんは、「よく起こる問題と気を付けるべきポイント」を教えてくれた。

ある日、突然いなくなる・・・絶対NGな接し方

まず、外国人材活用における、最悪の結末は“逃亡”だ。逃げられたら連れ戻すことは難しく、結局あきらめることになる場合がほとんど。
中村さんによれば、日本にやってくる外国人たちは、多くがSNS内で同郷者のコミュニティーを持っているそうだ。その中で、「うちの会社はこうだ」といった情報交換がなされ、現状に不満を持つ外国人材は最悪、逃亡するのだとか。
外国人材に3度も逃げられたB社では、「心当たりはない」としつつも、対策として、現地の送り出し機関(ページ参照)へ、特に、「お金と時間」のことを伝え、それらに納得した人とのみ面接するようにしている。
特に給与面の条件は細かく伝えるようにすべきだ「。家からの移動時間は時給が発生しない」「始業時間より前に出社する」「雨で現場が流れたときは、別の日に振り替える」など、日本では働き方の不文律となっていて、あえて確認しない事柄も、外国人材からみれば「聞いてない」と不満の対象になりやすい。

また、「忘れてはいけないのは、彼らが基本的には“稼ぎに来ている”ということです。そのため、予定していた現場が休みになった時は、別の現場を振るなど働けるようにしてあげることが、彼らのモチベーションにつながることもあります」と中村さんは教えてくれた。
当然、現場にも外国人材のモチベーションを下げてしまう要素はある。
「技能実習生は、技術も日本語力も低い“。日本の新人と同じだろう”と思っていてはいけない。まず“何もできない”と思ってよいでしょう。そのうえで、育てていく覚悟をすべきです」「何もできないし、どうせ数年で帰るから」と、単純な荷物運びや掃除だけではやる気を削ぐ。「彼らは働くと同時に技術を学びにも来ている」と中村さんが言うように、技術者の卵として扱うようにしよう。

また、現場が緊迫した際に飛び出す大声や、ちょっとしたときにヘルメットをポンッとたたくことも、彼らにとっては、自尊心を大きく傷つけられる出来事なのだという。特に、近年増加傾向にある東南アジア系の人たちは、自己主張をするのもためらうことが多いくらい控えめだとか。日本人同士のコミュニケーションでは、とりたてて問題にならないことも、大きな溝を生むことになるのだと気に留めておきたい。

人材難時代を乗り切る長期ビジョンの成長戦略

先ほど紹介した、「外国人材の活用で、事業を黒字に変えた」A社。その取り組みは、建設業界のモデルケースとなり得る。
その会社には、採用のサイクルができている。大切なのは、切れ目なく外国人材を採用し続けることで、そうすると、同郷の先輩社員が後輩社員に、日本の働き方や会社のルールを教えてくれ、トラブルなく新しい人材が会社や働き方に馴染むことができるようになるのだ。

現状、外国人材の活用には期限がある。そのため、「今いる人が帰ったら次の人を」と考えがちだが、少なくとも1年は重なるように採用すべきなのだ。

また、外国人材との間でしっかりとした関係を作ることができていれば、3年間の技能実習期間を終えて本国に戻った人が、建設就労者として再雇用に応じてくれるケースも多い。
彼らは、現場経験豊富な外国人材のリーダーとして力を発揮してくれる。
A社の話でいえば、「“実習生からいる建設就労者”は、2年で日本人の3年目、3年で4、5年目レベルになる」という。現状でも最長で年の就労が可能なため、外国人材全員の面倒を見る兄貴分的な「外国人材のリーダー」を育て、その役目を外国人材間で引き継ぐことができるようにすれば、職人不足に悩むことはないということだ。

また、同社では外国人材が入ることで、現場のあり方自体もよいものになってきたという。「以前は罵声、怒声が飛び交っていたが、彼らへの配慮で、冷静に話して確認、指示を行う現場に変わった」と話してくれたそうだ。

黒字化した企業が定めた育成のルール

外国人材を戦力となる職人にするためには、まず「日本語を覚えてもらうこと」だ。
A社では、現場の上がりが早いときは、職長が事務所で日本語の勉強を見たり、事務職員が話の相手をしたりしたという。

また、控えめな東南アジア系の人たちには、「大丈夫」という言葉を禁止にしたこともあったそうだ。現場で何か問題が発生しても、彼らは「大丈夫です」と言いがち。しかしそうすると、重大なミスの発覚が遅れ、外国人材への見方が「仕事を任せられない」というものになる。そのため、すべての日本人職人が「何かあったら“大丈夫”ではなく、すぐ言ってくれよ」と歩み寄る姿勢を見せるようにしたのだそうだ。中村さんは「外国人材へは“家族と同じように接する”ことです」と強調する。そうすることで、元来の真面目さを発揮し、会社を引っ張っていく貴重な戦力になっていくのである。


イラスト=佐藤竹右衛門 文=向山勇/山﨑テツロウ