災害のときに必死で復旧工事をしている人たちを見て、自分も社会に役立つ仕事をしたいと、地元の建設会社に入社しました。先輩と一緒に働きながら仕事のイロハを覚えましたが、人によって段取りや仕事のやり方が違い戸惑うようになりました。一体何が正しいのでしょうか。
「言われた通りにやれ」では、新人は戸惑う
「考えるヒント」を与えながら育てよう
Q
A
イラスト 佐藤竹右衛門
まだ経験の浅い若手社員には、よくある悩みです。指導を受けたいと思っても職人ごとに作業手順ややり方が異なり、若手の育成に慣れていない職人だと「黙ってオレのやり方に従え!」と強圧的に言いがちです。
毎回、違うやり方に従っていて、本当に仕事が身につくのかと不安に思う気持ちも分かります。しかし、建設現場というものは、現場の状況や条件、季節などによって、さまざまに変化します。
材料の置き方をとっても、組み合わせながら置く人もいれば、全部そろってはじめて置く人もいる。測量の仕方も、どこから測るか決まっていません。施工管理も統一のマニュアルがあるわけではありません。
例えば、造成地にU字溝を埋めて道路舗装するのにも、どこから始めるか、U字溝をどこにどのように並べるか、正解はありません。経験を経るごとに職人たちは現場を見ながら判断しているので、やり方が違ってくるわけです。
例えば、どこかへ行くにしても、自動車を使うのか、電車かバスか、いろいろと手段はあるでしょう。自動車にしてもルートはいろいろあり、必ずしもナビゲーション通りがいいとは限りません。しかし、若い人ほどナビ通りにやりたがります。
結論から言えば、自分が一人前になって責任者になったとき、最も正しいと思う方法で仕事をすればいいのです。それまではいろいろな先輩たちのやり方を自分の引き出しに入れて、幅広いノウハウをためておくことが重要です。
私が建設会社の新人教育に携わったとき、「雨が降ったらどうすればいいのですか」という質問を受けたことがあります。放っておいたら工期が遅れてしまう。それならいま何をするべきか、自分で考えることが仕事の面白さです。
学校の勉強と違って、必ずしも正解があるとは限りません。みんなで話し合って知恵を出す。若手だろうと先輩に聞いて従うばかりではなく、自分で考えて意見をぶつける。そこから成長が始まるのです。
先輩や上司も、若い人の指導の仕方に気を使うべきです。「邪魔だから、あの材料を向こうに運んでおけ」というだけでなく、「クレーンで効率的に吊り上げるには、一カ所にまとめて積んでおいた方がいい」などと理由をちゃんと説明して、「では、どこに材料を置くのが一番効率的か考えてみなさい」と、丁寧に教え、導く必要があります。
図面や手順書が間違っていることもあるので、その通りに進めるのではなく、おかしいと思ったら解決策を考えることが「やりがい」になるのです。
ベテランは若手が悩んでいる姿を見たら、育てるチャンスだと思って、どんどんアドバイスしてください。自分で考えて工夫している姿を見たら、「すごいな」とほめることで若手は成長します。お互いに学び、教える姿勢が大切なのです。
解説
中村秀樹(なかむら・ひでき)
ワンダーベル合同会社 建設コンサルティング&教育
名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路、新幹線の橋梁工事などに従事。
建設マネジメントの実践、建設技術者教育で活躍。