作業中に重機に挟まれたり、接触したり、クレーンが転倒したりする重機災害のニュースをよく聞きます。死亡者も出しかねない重大事故になりやすいため、当社でも注意していますが、元請会社から防止対策を提出してほしいといわれています。どうしたらヒューマンエラーを防ぐことができるでしょうか。
「慣れ」と「油断」を徹底排除!
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今年4月に広島県福山市の工事現場でクレーンが転倒、作業員2人がケガをしました。5月には東京都品川区の老人ホーム建設現場で大型クレーン車が転倒、ワゴン車やトラックなど車3台を押しつぶし、男性1人が死亡、1人が重傷を負いました。
建設業界ではベテランのオペレーターが減りつつあり、こうしたクレーン事故が後を絶ちません。クレーンは転倒を防止するアウトリガーという脚が張り出すようになっていますが、過重な荷物を吊ったり、地盤が軟弱あるいは水平でなかったりすると、転倒リスクが高まります。経験が不充分なオペレーターは無理をしがちで、結果、事故が起こるのです。
また、モーメントリミッターという、過荷重になると警報を発する装置もありますが、鍵によって手動に切り替えてしまえば役に立ちません。大手建設会社ではこの鍵を厳重に管理していますが、中小事業者ではオペレーターに任せてしまっているケースもあり、それが事故につながっています。
クレーンはちょっとした風でも荷が揺れます。重心が2~3度傾いただけで転倒の危険があるので、慎重に作業をしなければなりませんが、不慣れだと過信してしまうことがあります。
早く仕事を終わらせたいとか、中止すると作業日程が遅れる、段取りを変えなければならないなどのプレッシャーから、無理をしてしまうこともあるでしょう。だからこそ、作業の基準やルールをしっかりと決め、転倒防止対策を用意することが大事で、元請に言われなくても自ら策定するべきでしょう。
まずはオペレーターを入れて過荷重防止と地盤対策を検討し、クレーンの設置や鉄板の敷設基準などを定めましょう。
重機による挟まれや接触事故については、死角対策が重要です。重機にバックモニターやセンサーを設置して確認したり、自動停止機能を完備したりするだけでなく、声掛けなど作業員のルール、意識付けが重要です。
その際、合図やコミュニケーションルールを決めて、定期的な教育を行いましょう。動画教材なども有効です。例えば、重機の作業エリアを三角コーンなどで囲い、エリアを横切るときには声を出して「グー」サインを示し、問題がなければオペレーターが「パー」サインで許可する方法は、昔から有効とされています。
また、重機が旋回したときに後部と壁の間に作業員が挟まれる事故も少なくありません。後部に発泡スチロールを貼り、接触するとセンサーで自動停止するような仕組みも必要です。
ヒューマンエラーの最大の原因は、慣れと油断です。オペレーターも作業員も、日頃から安全意識を持つようにリスクアセスメントと教育を徹底しなましょう。
過去の事故事例から、どんな場所でどん事故が起こりやすいか、常に考え、小さなミスやトラブルを見逃さないことが大切です。始業前の点検などで意識を高めましょう。
解説
中村秀樹(なかむら・ひでき)
ワンダーベル合同会社 建設コンサルティング&教育
名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路、新幹線の橋梁工事などに従事。
建設マネジメントの実践、建設技術者教育で活躍。