住友建機株式会社SUMITOMO

「労災隠し」は絶対NG。
軽い気持ちでごまかしても、発覚すれば大問題に!

Q

二次下請けの会社ですが、現場で当社の作業員がケガをした際、労災保険を適用しようとすると、元請けから当社の労災保険を使ってくれと要望されました。本来、元請け会社の保険を使うのが当然ですが、公共工事なので、ケガ人が出たことを隠したいというのがホンネのようです。しかし、それでいいのでしょうか。

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イラスト 佐藤竹右衛門

まず知っておいてもらいたいことは、現場で発生したケガなどは、元請け会社の労災保険を使用することが正しい対処であることです。労災保険法では建設会社は、工事現場で働くあらゆる労働者(アルバイトも下請けも含めて)が災害に遭った場合、その労災保険を使って補償することを規定しています。

ただし、下請け会社の敷地内のヤードで作業者がケガをしたら、下請け会社の労災保険を適用することがあります。

公共工事では、元請け側の労災保険を使うと労災事故として記録され、評価点が落ち、入札時に不利になります。それを避けるため下請け側の労災にしたがることがあります。

この際、ケガした場所を下請け側ヤードのように見せかけるなどの意図的行為があれば「労災隠し」とみなされ、法律違反となります。重罪を科せられるので、絶対に考えてはいけません。労働基準監督署(以下、監督署)の目を盗んだつもりでも、悪質な労災隠しが発覚すれば公共工事を入札できなくなります。

労災隠しでもばれなければいいと考える人もいるかもしれませんが、治療した病院でケガをした場所や状況を聞かれるでしょうし、監督署が立ち入り調査することもあります。そのときになって「元請けに強要された」と言っても、犯罪行為に加担したことになりますから注意しましょう。
ケガをした本人に口止め料を払って労災隠しをするような話も耳にします。しかし、こういうことは必ず漏れるもの。下手な工作は罪を重くするだけです。

万が一、元請けから「言うことを聞かないと次の仕事はないぞ」などの脅迫的圧力を受けても、従ってはいけません。脅迫を受けたら必ず社内で共有し、証言を記録しておきましょう。
意図せずに労災隠しをしてしまうこともあります。救急車を呼ぶような大きなケガで、休業が4日を超えると、労災保険で補償し、すぐに報告する義務があります。これを怠ると労災隠しとみなされます。しかし、軽傷で休業が3日間以内の場合、治療費等は事業主負担で報告も後日で構わないため、事故の場所をごまかすなどの不法行為が生まれやすくなります。下請けとしては、ほんの軽い気持ちでごまかしても、発覚すれば悪影響があると知っておくべきです。

ケガではなく、熱中症などで倒れた場合、事業主が治療費を労災保険で支払うか現金で全額支払うかは任意ですが、本人の健康保険を使うことは不適切です。労災保険の場合は現場の保険、つまり元請け側の保険を使うべきであり、下請けの保険を使うのは不適切な行為です。

時には本人の持病が原因で倒れる場合もあるでしょう。それでも、事業主には健康管理を行う義務があり、日頃から健康状態を把握して必要に応じて危険作業を外すなどの労務管理が求められます。経営者や現場責任者が「知らなかった」では済まされないことも認識すべきです。

解説

中村秀樹(なかむら・ひでき)

ワンダーベル合同会社 建設コンサルティング&教育
名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路、新幹線の橋梁工事などに従事。
建設マネジメントの実践、建設技術者教育で活躍。