住友建機株式会社SUMITOMO

見積額より安い地盤改良依頼は
断るべき? 妥協点を探るべき?

Q

不動産会社から請負った造成工事のことが気になっています。施主指定の場所から搬入された土が良くなかったので、協議して良質土への置き換えから地盤改良に変更したのですが、提出した見積もりを納得してもらうことができず、最低限の地盤改良しかできませんでした。今後、何か問題が起こるのではないかと不安です。

A

イラスト 佐藤竹右衛門

地質・地盤にからむ請負契約のトラブルは建設会社にとって悩みの種です。造成する土地が軟らかい場合、その土を剥ぎ取って新しい土を埋める置き換えか、セメントや石灰を混ぜて土を固形化する地盤改良を行います。どちらを選択するにせよ、難しい交渉になるのが費用です。

十分な安全が確保できる地盤に改良しようとすればお金がかかりますし、置き換えであっても、土を埋める深さが深くなればなるほどお金がかさみます。不動産会社としては、高額な物件は売れないのでなるべくお金をかけたくないわけですから、見積もり交渉がスムーズにいくことは少ないでしょう。

請負契約では、所定の地盤にした上で造成し、施主に引き渡さなければなりません。そのとき、どこまでが瑕疵になるのか。宅地であると分かっているのに、住宅を建てるのに不適当な地盤のまま引き渡したのであれば施工者が悪いことになります。

では、地盤改良費を500万円と見積もったのに、施主が200万円しか出さなかった場合はどうでしょうか。施工者が「その予算でやれるだけのことはやってみますが、もし不具合があったとしても責任は取れません。それでもいいですね」と聞き、「いいよ」という返事をもらったとします。
そういういきさつがあって建てられた家が大雨の影響で傾き、居住者が施主にクレームをつける。施主は「うちの建物は悪くない。地盤が悪いのだから不動産屋の責任だ」と言い、不動産屋は「土地を造成した建設会社がいい加減な施工をしたからだ」と責任逃れをする。

こういうトラブルで裁判になるケースがよくあります。おそらく裁判では、不動産会社は「地盤改良をどこまでやれば十分なのか、素人の我々には分からない。やると言ったから大丈夫なんだと思った」と主張するでしょう。話がこじれたとき、「あの建設会社はひどい」と言いふらすかもしれません。結局は、悪評が広まるのを恐れる建設会社の「請け負け」になってしまうことが多いのが実情です。

金額が折り合わない場合は断るのがベストですが、それができないこともあるでしょう。請負ったのであれば、赤字を覚悟して万全の地盤改良をするか、それが無理なら不十分な施工であることの証拠を残しておくことです。口頭では全く意味がないので、「最低限の地盤改良はしますが、沈下の恐れがあることを承知してください」等の打ち合わせを記録しておきます。記録には“最低限”とはどのくらいの強度なのか数字で示しておくことが重要です。

ただし、この種の裁判に詳しい弁護士にうかがったところ、「宅地として問題なく販売できる地盤レベルであること」が請負契約の目的になっているので、施工者の責任は重いと解すべきとのことです。施工不良にならない地盤改良をすることです。

解説

中村秀樹(なかむら・ひでき)

ワンダーベル合同会社 建設コンサルティング&教育
名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路、新幹線の橋梁工事などに従事。
建設マネジメントの実践、建設技術者教育で活躍。