住友建機株式会社SUMITOMO

重大事故が起こる前に!
高齢者の“身体と記憶”を定点観測

Q

当社では年々、高齢化が進み安全対策が気になります。
80歳以上の技能者もいて、段差につまずいたり、作業中に腰を痛めたり、重いものを落としたりといったことがよくあります。
いつか、重大事故が起こるのではないかと心配です。元請けも事故には神経質になっており、どうすればいいでしょうか。

A

イラスト 佐藤竹右衛門

現在、建設業界では高齢作業者の安全対策が大きな課題になっています。

国土交通省が総務省の「労働力調査」を基に算出した「建設業就業者の現状」によると、2019年の就業者のうち約34%が55歳以上、約25%が65歳以上です。全産業平均で55歳以上が約30%であることから、建設業界の高齢化が進んでいることがわかります。29歳以下は全体の11%にすぎず、若手就業者の確保が喫緊の課題です。

私の知り合いの建設業者では、80歳を超える左官屋さんが働いていて、その社長が「今度、若い人が2人入った」というので喜ばしく思っていたら、なんと72歳と75歳の方々でした。
もちろん、高齢者が活躍してくれるのはいいことですが、高齢になると、だんだん体力や注意力が失われ、思わぬ事故を引き起こすことがあります。トラックや重機の操作を誤れば、重大事故に発展するかもしれません。「まだ自分は若い」と思っている人ほど事故を起こしやすく、自覚を促す必要があるのです。

建設事業者としては、そのための啓発や教育を行うべきです。近年では、元請けが作業者の事故に気を遣っており、安全対策を行うことは、下請けとしての高い評価につながるでしょう。
こうした安全対策は、高齢者に限らず、新入社員や不慣れな中途入社組も対象になります。
教育のポイントは、身体・認知能力のチェックです。安全のためにどのような基本動作が必要か、その作業を行うだけの運動能力があるかを確認し、本人の気づきを促します。
30秒片足立ち、地面の上の角材安定歩行、数十センチの段差の障害避け歩行、水溜りを大股でよけるなど、動作能力を試してみると、注意力が増します。

また、記憶力のチェックでは、5つの言葉を示して覚えられるかなどを、テスト形式ではなくスタッフみんなでゲームのように実践するのがいいでしょう。安全対策は高齢者自身だけでなく、その周囲も配慮するべきことです。サポートが必要な人がいれば、重い荷物の運搬を代わってあげるなどの思いやりが事故を防ぎます。
身体・認知能力を確認したら、作業内容を分類して表にし、その人のできる作業とできない作業を色分けします。現場にこの表を貼り出して、仕事始めに確認すれば周囲のスタッフも協力しやすくなるでしょう。

こうした能力確認は、例えば安全週間の7月と半年後の1月など、年に2回ほど行います。このような活動は堂々と元請けにアピールするべきです。そうすれば、元請けも協力してくれるかもしれません。

また、現場のスロープに手すりを付けたり、段差を小さくするなどのバリアフリー化や、足元に何かを落としてもケガをしないよう、安全靴を履いておくことも必要です。長く安全に、高齢者でも働けるような環境づくりを進めましょう。

解説

中村秀樹(なかむら・ひでき)

ワンダーベル合同会社 建設コンサルティング&教育
名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路、新幹線の橋梁工事などに従事。
建設マネジメントの実践、建設技術者教育で活躍。