住友建機株式会社SUMITOMO

プロセス別に徹底解説!
経営体力アップの5つの特効薬

近年、建設業界では、働き方改革による生産性向上への取組みが進められているが、その一方で、「経営体力アップ」という点での改善はあまり見られない。
急務となる経営体力アップの秘訣を、5つの視点で解説する。

「生き延びる企業」には、何が必要なのか

迫りくる社会変容に備えよ!

これまで数々の建設会社の経営改善を実現している建設コンサルタントの中村秀樹さんは、経営力をアップしなければ、これからのアフターコロナの世界は生き残れないと警鐘を鳴らす。
「コロナ禍のあと、赤字企業と黒字企業にドラスティックに分かれ、企業の半分はスリム化し、合併・買収など再編が活発になっていくでしょう。その背後には高齢化した従業員と後継者不足による廃業も見え隠れします。
これは建設業に限った話ではありませんが、経営者が生き残るためには社会の流れをしっかりと見極め、いろんな情報を集めて、今どうすべきかを考えなければならないのです」

新旧の融合が必要

さらに中村さんは、企業が生き残るためには新旧の融合が不可欠だと語る。
「現在、地域建設企業は『ベース企業』と『スマート企業』の2つに分類されます。ベース企業とは、ベテラン中心の昔ながらの企業で、スマート企業とは、若手中心で新しい技術を使って仕事の仕方を革新する企業です」(図表❶参照)
両者の比率は8:2でベース企業が多いが、今後のデジタル化に応じて、ベース企業はスマート企業に変わることが迫られそうだ。最終的にはスマート企業が7割を占めるようになるとみられるが、「すべてがスマート企業になるべきとはいえない」とも指摘する。
「どちらがいいかは業容によって違います。とはいっても、両方ないとダメで、古いものを捨てるのではなく、使えるところは残して新しいものと融合させることが、生き残る上では重要なのです」

建設会社ならではの経営戦略の立て方とは

経営力アップを目指す時、まず必要なのが戦略だ。
「経営戦略は、①徹底的に自社分析をする、②自社の強みを活かせる分野を決める、③目標を設定するという流れで立てましょう」
自社分析によって、これまで自社がどのような工事を請け負っているかを把握する。例えば土木メインの建設会社で、最近のデータから「河川工事が増加、道路工事は横ばい、下水工事は減少傾向にある」とわかったとする。
このデータから、「将来性のある河川工事の割合を増やしたほうがより高い収益を上げられる」と予想できるので、その方向で目標を立てる。このように工事発注量と売上比率の表を作成して分析し、社員全員で共有、認識することが重要なのだ(図表❷参照)。

特効薬(1)
上昇志向で堅実な「営業目標」設定

工事カテゴリー別の、営業目標の明確化

営業力が高ければ、経営体力もアップする。そこで特効薬の1つ目として、営業目標設定の仕方について考えてみよう。
目標設定には3つのポイントがある。1つ目が「工事カテゴリー別の営業目標の明確化」だ。土木メインの会社なら河川工事や下水工事、建築メインなら病院やマンションなど、得意な工種のカテゴリーを決めて、今後の市場動向を見極めた上で受注目標を決める。
「その場合、国からの公共工事を年間3億円、県からの工事を年間5億円など、発注者別に決めると、より明確になります」

付加価値基準に基づく受注判断

2つ目が、「付加価値基準に基づく受注判断」。工事原価を算出できる企業は民間工事の見積もり内容から判断できる。この時、付加価値を定義づける必要がある。
「付加価値とは、工事請負金額から工事原価を引いたあと(粗利益)に工事社員人件費を足した金額と考えます。1億円の工事を受注して8000万円の工事原価なら、残った2000万円のこと。人件費も含めて会社で使えるお金を指します」
この付加価値の目標額をいくらにするかで戦略は変わってくる。綿密に計算しよう。

顧客との反復継続的な関係の構築

3つ目が、「顧客との反復継続的な関係構築」。これが営業目標として最も重要と言っても過言ではない。地域建設会社は民間の発注者から継続的に受注しているケースが多い。例えば、全国に店舗展開している衣料品メーカーやドラッグストアなどの店舗建築を一度受注し、高評価を得ればその後も継続して特命という形で受注できる。
「発注者としても、その店舗の設計や施工の要領を全部わかっている建設業者に頼むと楽なので、相見積もりなど取らずに継続的に発注します。
そのような企業と連携すれば、黙っていても声がかかるので営業が楽になり、営業目標も立てやすくなります。ゆえに顧客とのリピートを増やす関係力こそ目標とすべきです」

特効薬(2)
値切り交渉にも対応できる「柔軟な見積もり」

正確な原価算出で、交渉が優位に進む

受注するには、的確な見積もりが重要だ。公共工事の場合はソフトを使用して発注者の設計価格を算出できるから、話は簡単だ。
問題は民間建築の見積もりである。中村さんは「全体の工事原価が見えていないと、とんでもない見積もりを出しかねない」と警告する。
「原価がわからないまま受注してしまうと、利益がほとんど出なかったり、余分な費用がかかって損失を出してしまったりということもあります。反対に、実際の施工費に比べあまりに高く見積もってもいけません。そこで現場経験者が工事原価を算出し、精度を高めることが求められます」

「精度を高める」というのは、実際の工事費用と、見積もりに記載する工事原価の差異をできるだけ小さくすることだ。自社で完結している作業であれば、見積もりが大きくずれることは考えにくい。問題は、外注に出しているときだ。
「外注するなら、必ずその都度、見積もりを取るようにしましょう。なあなあの相手で『今回も同額でやってくれるだろう』と思っていても、材料費や人件費が高騰していたら計算が合わなくなってしまう。ここでしっかりと見積もりを取っていれば、自社の利益をどの程度乗せられるのかがわかるし、発注者から値切られたときも、どこまで落とせるか判断できます。自社の利益を確保しながらも、柔軟性のある見積もりを作ることが肝要なのです」

特効薬(3)
工程管理には「ネットワーク工程表」を

監督いらずのネットワーク工程表が便利

工程管理は、それぞれの作業の相関関係がひと目でわかるネットワーク工程表が便利だ(図表❸参照)。
これなら、各施工業者が作業の進捗状況をパソコン上のシステムに入力するだけで、次の工程の職人が取りかかる日時がわかる。また、各施工業者間で進捗が管理できるので、監督いらずの工程管理ができる。特に住宅メーカーでは20年ほど前から、協力会社同士が独自のシステムを開発して活用している。
「今後は建築や土木でもこのネットワーク工程表を少しずつ導入することで、生産性を上げ、ミスを防ぎ、無駄を省き、合理的な施工が可能になるでしょう」

これらのネットワーク工程表はエクセルを利用しても作成できる。インターネットで検索すれば市販のソフトを含めて数多くの事例がヒットするから調べてみよう。
ただし、それを元に自社の施工手順に合わせることが重要だ。なぜなら他社の例をまねるだけでは実際に工事に従事する人が自分ごととして認識しづらくなるからだ。

特効薬(4)
顧客情報を管理する「詳細情報入り」の台帳

ニーズがわかれば営業しやすい

受注を増やすためには、顧客ごとに施工した年月日、問い合わせがあった年月日、話した内容、要望などを記入する顧客台帳の作成が欠かせない。
特に住宅メーカーなど、個人を顧客とする建設会社は昔から顧客台帳を効果的に利用している(図表❹参照)。
「顧客台帳を時々見返すことで、『Aさんは3年前に自宅を新築した際、子どもが小学校に上がる頃に部屋を作りたいって言っていたから、そろそろ提案しにうかがおう』とか、『お風呂にもっとのんびり入りたいと言っていたな。最近バスの新製品が出たから提案してみよう』と提案のタイミングがわかり、受注の可能性が高くなるのです」

建築の場合も同じように応用できる。例えば、顧客台帳を見返して「あの工場、建築してだいぶ経つな」と思って見に行ったら舗装が荒れていた。そこで顧客に「再舗装する必要があると思いますが、もし要望があったらぜひ検討してください」と売り込む。そこから受注につながるケースも多い。
「こまめに通って、最初は小規模な工事から徐々に大きい仕事をもらえるようになり、成長した地域建設会社もあります」

特効薬(5)
社員が「働きたい」と思える環境づくり

総労働時間の削減が必須に

2024年4月1日から、労働基準法の改正により、労働時間の上限が規制され、違反した企業に罰則が科せられることになった。この影響で、中村さんのもとに各地の建設会社から、「休日出勤を認めていると残業時間がすぐに上限を超えてしまうから、何とか週休2日制を導入したい」という相談が多く寄せられているという。
「作業効率の向上がこれまで以上に求められるようになります。そこでまずやらねばならないのが業務分析。従業員に、平均的に行っている仕事内容を書き出してもらい、『重要で自分にしかできない仕事』『教えれば誰でもできる仕事』など、難易度や重要度によって仕分けます(図表❺参照)」
この作業仕分けによって、「優先順位が低くて、時間がかかる仕事」を減らす。例えば、その人にしかできない仕事はそのままやらせて、誰でもできる仕事はパソコンでシステム化したり、手の空いている他部署の人にやってもらうというふうに変える。ここから業務の合理化が始まるのだ。

残業時間が減ると、困る人をどうするか

残業時間はただ減らせばよいというものでもない。残業時間が減れば、当然収入も減る。時間よりもお金がほしいという従業員はモチベーションの低下、果ては離職にもつながりかねない。
「そういう社員には、例えば月の平均残業時間が40時間なら、毎月40時間相当の手当をつけてあげるとよいでしょう。賃金の手当の中に『現場手当8万円(40時間残業時間含む)』と明記すればいいわけです」
ただし、きちんと勤務台帳を作成し、もしその月の残業時間が10時間でも40時間分の残業代は払うし、50時間ならプラス10時間分の残業代を払う。これなら社員もうれしいだろう。
「ただこのやり方では、利益が出ていなければその賃金は会社にとって負担となります。負担を減らすため、合理化やリストラなどをせざるをえません。今後は、試行錯誤しつつ、自社に合ったやり方を選択する必要があります」
いずれにせよ、今のうちから残業時間を減らして休みを増やすなど、労働環境の改善に取り組まなければ、人材確保は難しいだろう。


監修=中村秀樹
イラスト=佐藤竹右衛門
文=山下久猛