面倒な仕事が楽になる!
建設業の「AI活用術」

「アナログ産業」の代表格のようにいわれる建設業界。しかし、人手不足や2024年問題への対応、残業規制の順守が求められる中、業務効率化は待ったなしの課題だ。

そこで注目されるのが“AI(人工知能)”。
日々の書類作成、写真管理、工程調整、教育、経営判断に至るまで、建設業のあらゆる場面で活用余地が広がっている。「うちの会社には関係ない」と感じるハードルを下げ、AI活用を始めるための実践的な事例を紹介する。

建設業の「AI活用術」

「面倒な仕事」が楽になる!

今やAIは業界を問わず
必要不可欠な存在に

最近「AI(人工知能)」に関するニュースを耳にする機会が増えたと感じる人は多いのではないだろうか。AIは私たちの社会のいろいろなところに取り入れられており、必要不可欠なものになりつつある。計算や文章作成、調べもの、画像や動画の加工・修正など、それまで人間が手作業で行っていたことを代わりにやってくれるため、重宝される存在にもなっている。

ビジネスにおいても、AIを活用する企業が増えてきた。人力に頼らずにスピーディーに、そしてかなりの正確さで作業をこなしてくれるため、生産性向上、業務効率化、負担軽減、人的ミスの防止などのために導入が進められており、それは今後も加速していくだろう。特に近年は少子高齢化による労働力不足が問題視されている。それを補うためにも、AI活用やその導入を検討する企業は今後も増えていくことが見込まれる。

AIは建設業でも活躍の余地がある?

中でも高齢化の進行と若年層の不足が深刻な建設業では、現場作業やバックオフィス業務の負担軽減のためにAIを積極的に活用する事業者も増えている。

しかし一方で「導入したいが何から始めればいいかわからない」「建設現場でAIは役に立つのだろうか」などといった疑問や懸念から、二の足を踏む建設事業者も多い。同じものを大量生産する製造業などとは違い、建設業は〝一品もの〟をつくっている。現場ごとに設計や施工も異なり、「建設現場にAIはなじまない」と思ってしまうのも無理はないが、果たしてそうだろうか。

図❶❷は、生成AIを利用することで、作業時間がどれだけ削減されたかを示したものだ。企画や相談、文書・資料作成、データの分析や情報の整理などでAIが業務効率化に役立っていることがわかる(図❷)。建設業に限定した調査ではないが、「これならうちの建設会社でも役に立つんじゃないか」と思わせてくれる結果になっているのではないだろうか。

では導入にあたって、何から始めればよいのだろうか。ここでは実際にAIを活用して成果を出している建設事業者の事例を基に、建設コンサルタントの中村秀樹氏に解説してもらう。

建設業の省力化・効率化に役立つ

議事録作成ツールで負担もストレスも軽減

中村氏が紹介してくれたのは、関東で事業展開するK社。同社がAIを導入したきっかけは“議事録の作成”だったという。

「会議や打ち合わせなどの議事録をつくるのに、若手社員が四苦八苦している様子が社内でも問題視されていました」
と中村氏。議事録の作成に時間が取られてしまい、本来やるべき業務にも支障が出ていたというのだ。

「他の社員たちからも『○○さん、まだ議事録やってるよ……』と気の毒に思う声があがってしまうほどの状態だったそうです。専属の担当者を置くほどの作業ではありませんし、社員の負担を軽減する目的でAI議事録作成ツールを導入したのです」

議事録作成ツールは、会議などで録音した音声データの文字起こしだけでなく、自動で議事録としての体裁も整えてくれるものだ。これによってK社の社員は議事録作成の業務から解放され、自分の業務にも集中できる環境が整ったという。省力化・効率化だけでなく、社員のストレス低減にも役立ったといえる。

メールや議事録など、
煩雑な文書作成を自動化

メールの文章や提案書もAIで

中村氏によると「建設業界には文章を書くことが苦手な人が多い」という。

そのため、メールなどのビジネス文書の作成などでAIを活用するケースも増えているそうだ。K社においても、「例えば取引先にメールを送る際に担当者が『こういう場合はどんな表現で書けばいいんだろう』『敬語の使い方はこれで合っているだろうか』と悩みながら文章を書いていました。そこでAIの文章作成ツールや添削ツールなどを導入して、この手間を解消することに成功しています」

ビジネスメールは大切だが、それに時間をかけてしまうのはやはりもったいない。建設事業者の中には、外部の力を借りるなどして文章作成研修などを実施するところもあるが、時間やコストもかかってしまう。効率化を考えるなら、AIのツールを使ってみるのも一つの方法といえる。

またK社は提案書の作成にもAIを活用しているという。例えば公共工事の場合、工法などはコストやメリット、デメリットなどを比較して3案、提案しなければならない。過去事例などとの照らし合わせも時間がかかるものだが、AIを活用することで大幅に時間を短縮できている。
「ただし、AIは完璧ではありません。提案書の内容に間違いがないか、提出前に確認する必要があります。その場合は、若手よりも経験豊富なベテランがチェックするようにしているそうです」

ノウハウを収集して
自動で整理させれば有効活用できる

ベテランの知見を収集・蓄積して後継へ

K社では現場作業でのKY(危険予知)活動にも、AIを活用している。
「現場の様子を写真に収め、それを安全支援ツールに読み込ませます。例えば段差があってつまずきやすいなど、現場内の危険ポイントを予測して教えてくれるのです」

社内ミーティングなどでそれを共有して、現場での危険予知に活かしている。
「ベテランならば現場の状況を見ただけで危険ポイントがわかります。しかし経験の少ない若手にはそれが難しいものです。経験不足を補う意味でもAIは役立っているといえるでしょう」

そしてここに、K社に限らず多くの建設事業者が抱える課題が潜んでいると中村氏。
「経験豊富なベテランが大量退職してしまうと技術やノウハウの“断絶”が起きてしまいます。これをAI活用によって解決しようという動きもあります」

インタビューなどによってベテランの経験やノウハウを収集し、マニュアル化するAIツールがある。またチャットなどの機能を使って若手が質問をすると、蓄積したノウハウを基にAIが回答するものもある。ベテランが現役で頑張っているうちに、できるだけ多くのノウハウを収集して、AIによって整理しておくのもいいだろう。

入札情報を収集して教えてくれるAIもある

ここからはK社以外の事例を見ていこう。

公共工事の入札管理にAIを活用している建設事業者もいる。通常、公共工事の案件は、官報や自治体などのウェブサイトの公告・公示をチェックすることで情報収集するが、これをAIツールがやってくれるのだ。官公庁や自治体などのウェブサイトから入札情報を収集して提示してもらえる。全国各地、さまざまな案件を集約してくれるが、自社向けの情報のみをピックアップして知らせてくれるようにカスタマイズすることもできるという。これを使えば、公告などをこまめにチェックするなどという手間から解放される。当然、チェック漏れもなくなるはずだ。

負担軽減と業務効率化のためにも
デジタル活用は必須

スケジュール管理もシステムに任せ負担軽減

また事業者にとっては公的な手続き関連の期限の管理も大変だ。通常、そのような作業は社内の総務担当者が専属で行う。しかし中小の建設事業者の場合は現場管理者が兼務していることもある。社長自身がやっているところも多いだろう。

「期限前にアラートを出してくれるツールがあります」と中村氏。
例えば車検の期限、許認可の申請期限、契約などの更新・解約の期限などを通知してくれるツールもあり、実際に活用している事業者もいる。書類やメールなどから期限を読み取り、担当者に知らせてくれるというものだ。必要な提出書類などについても通知してくれるツールもある。“うっかり”を防止できる便利なツールといえる。このようなアラート機能があるツールを導入すれば、負担やストレスは大幅に軽減されるだろう。

できることから始めて段階的なAI導入を

ここまで見てきたように、現場以外のバックオフィスの業務でAIは大いに活躍してくれるはずだ。

文書やメール、議事録などの作成、スケジュール管理など、現場作業と兼務して行うのはやはり負担が大きい。文章を書くなど、苦手な作業ならばなおさらである。これらをAIに任せることができれば、社員にとっては大幅な負担軽減になり、他の業務に集中できるはずだ。

社内業務を見渡して、AIに任せられることはないか、考えてみてはどうだろうか。極端に時間を取られている業務がないか、ヒアリングしてみるといろいろな意見や要望が出てくるかもしれない。

まずは小さなこと、できることから始めてみてはどうだろう。それで成功体験を積み重ねていくことができれば、「次はこれもAIに任せてみよう」ということになって、AI活用が促進されるかもしれない。

最近の若い人たちはAIツールに抵抗がない人も多い。AIを積極的に活用して負担軽減・業務効率化が実現できている会社だというイメージができれば、人材確保にも効果があるかもしれない。

お話を伺った方

中村秀樹(なかむら・ひでき)
元ワンダーベル合同会社・建設コンサルティング&教育統括。名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路や新幹線の橋梁工事、シンガポール地下鉄工事や北極海石油開発プロジェクトなどに携わる。著書に『建設業・現場代理人 実践読本―求められる現場代理人像』(日本コンサルタントグループ)など。

Special Interview 蒲田建設株式会社

1960年の創業以来、公共工事を中心に地域の社会基盤づくりに貢献し続けている蒲田建設株式会社。
近年はAIの活用に積極的です。どのように活用して、どんな実績を上げているのでしょうか。
代表取締役社長・田丸潤一氏にお話をうかがいました。

バックオフィスのデジタル化で
会社全体の生産性を上げたい

岐阜県高山市。北アルプスのふもとに広がる奥飛騨温泉郷に蒲田建設の本社はあります。砂防に特化した会社としてスタートし、公共土木工事など地域の安全・安心を守ることに重点を置いて事業を展開しています。代表取締役社長の田丸潤一氏によると、同社のAI活用には〝地域ならではの事情〟が関係しているようです。
「奥飛騨温泉郷は過疎化による人手不足が深刻な地域です。そのため、新しいテクノロジーによる業務のデジタル化は必須だと考えていました。地域のインフラを守る伝統的な土木工事技術と、最新のデジタル技術を融合させることで他社との差別化が図れるのではないか、こんな田舎の建設会社だからこそやる価値があるのではないか、などと考えたことが、AI活用に踏み切ったきっかけです」

現場では早い段階からICT化に取り組んでいましたが、事務などバックオフィスの業務はアナログなままだったといいます。
「出退勤管理はタイムカードを使っていましたし、請求書や見積書の処理も全て手作業でした。現場とバックオフィスのデジタル化の格差があまりにも大きかったのです。ここをデジタル化していくことで会社全体の生産性が上がっていくのではないかと考えました」

資料作成の負担低減だけでなく
安全教育の「質」も向上

蒲田建設が最初にAIを活用したのは、月1回実施する現場の安全教育資料の作成でした。
「例えば暑くなる時季には熱中症対策など、そのときどきで注意すべきことなどを資料にまとめて、研修で使用します。それまでは現場監督がWebなどで関係資料を探して、PowerPointで作成していました」

しかしその作業負担は大きく、内容もマンネリ化していたといいます。
「現場監督によって、資料内容や説明の仕方にバラつきが出るようにもなっていました」

そこでどの現場においても、同じレベルの安全教育が受けられるよう、AIで資料を作成するようにしたそうです。
「作成の時間が大幅に短縮されて監督の負担が減り、資料も格段にわかりやすくなりました。現場によって教育内容に差が出てしまうこともほとんどなくなったのは大きいですね」

資料は4コマ漫画のような展開にし、デザインやイラストも工夫することができたとのこと。「皆さん、興味を持って見てくれるようになりました。協力会社の人からは『斬新でいいですね』という声も聞かれます」

そしてこのAIによる安全教育資料の作成には、思わぬ“副産物”があったのだとか。「AIがWeb上から、安全に関するさまざまな情報を収集してきてくれます。中には現場監督ですら知らなかったようなことも見つけてきて提示してくれるので、とても助かっています」

蒲田建設がAIを活用して作成した安全教育資料の一部
(資料提供:蒲田建設株式会社)

文書作成や入札情報収集に
AIを活用

蒲田建設では現在、おもに議事録や見積書、申請書などの文書作成にAIを活用しているそうです。
「技術者には現場作業に専念してほしいのですが、文書作成に手間を取られがちでした。その負担を軽減したかったのです」

また、公共工事の入札公告の情報収集でもAIのおかげで助かっているとのこと。
「いつ、どんな入札公告が出るのか、毎朝チェックするのが大変でしたが、入札情報を収集して知らせてくれるアラート機能を持ったツールを導入することで、その負担から解放されつつあります」

そのほか、メールなどの文章の添削、資格関係の更新漏れや講習の受講漏れの防止などにも活用しています。また、現場での労働災害防止にも役立っているそうです。
「現場の様子を写真や動画に撮って、それをAIで解析することで労働災害につながる不安全行動の自動検知に活かしています」

役所とのやり取りで必要な協議書や報告書の作成においても
「作業にあまり慣れていない若い技術者は協議書の作成に苦労しています。これをAIによって半自動化しています」
と田丸社長は続けます。

あらかじめAIに共通仕様書や特記仕様書を読み込ませておき、短い文章でAIに質問をすると、それらのデータに基づいて書類作成に必要な回答が得られるようになっているそう。重機など車両の車検の期限、点検の管理や日々の運行管理でもAIが活躍しているといいます。

拒否感や抵抗感は
「遊び」活用で解きほぐす

ところでAIの導入・活用はスムーズに開始できたのでしょうか。田丸社長によると「最初は抵抗感を示す社員も多かった」といいます。
「導入にあたって、社員から事前に意見を聴く機会をもうけました。すると『AIは信用できない』『自分たちの仕事はAIで代替できるものではない』といった声が少なくなかったのです」

それぞれの社員がプライドを持って自身の仕事に取り組んでいます。田丸社長はそれを損なわないようにしながら、AIについて理解を深めてもらう工夫をしました。
「例えば私の場合、洋服を買うときにAIを使っています。市街地から離れた地域なので、お店に行って試着するのが難しい。そこで自分の身長や体重などのサイズのデータや顔写真などをAIに読み込ませて〝相談〟するのです。自分に合ったサイズやデザインの服をAIに選んでもらい、気に入ったものを通信販売などで購入しています」

これを社員の皆さんにもすすめたという田丸社長。
「すると『AIでこんなことができるんですね!』『AIすごい!』と、興味を持ってくれるようになり、徐々に抵抗感がなくなっていきました」

いきなり仕事ではなく、まずは〝遊び〟でAIに親しんでもらう。そうすることで、現在はほとんどの社員が抵抗なくAIを使いこなしているそうです。

現場作業員の安全確保に
役立てていきたい

蒲田建設は現在、業務提携先であるIT企業と共同で、現場で活用できる新しいツールの開発にも取り組んでいるそう。その一つが除雪作業の負担軽減です。

蒲田建設では冬季に除雪作業を請け負うこともあるそうで、これが大きな負担になっています。
「除雪作業は通常、深夜1時か2時ごろに始めます。その場合、雪が降っているのかいないのか、何センチ積もっているのか、担当のオペレーターは1時間ごとに起きて屋外の様子を確認しなければなりません。これは心身への負担も大きいのです」

そこで現在、降雪・積雪の状況を画像などで自動検知して、オペレーターのスマートフォンなどに通知するシステムを開発しているそうです。

また現場での安全確保のためのAIツールも開発したいとのことで、山岳地域で作業をする事業者ならではの、こんなアイデアを聞かせてくれました。
「例えば落石や土石流など、危険な兆候をセンサーや動画検知などで把握して、アラームなどで作業員をすみやかに退避させられるツールがあるといいですね」

バックオフィス業務でのAI活用が軌道に乗りつつある蒲田建設。今後は〝安全〟のためにAIを活用していきたいそうです。

そして最後に田丸社長は、こんなことを話してくださいました。
「AIを積極活用するのは、自社の効率化のみを考えているわけではありません。奥飛騨という過疎地域においてAIを徹底的に駆使して成功した、日本の過疎地域のモデル企業になることを目指しています」

地域の人たちからは「チャレンジングな会社ですね」「次に何をやるのか楽しみに見ています」などという言葉をかけられることもあるのだとか。
「そのためにもできることから始めて、小さな成功体験を積み重ねていきたいと考えています」

企業プロフィール

●会社名:蒲田建設株式会社
●代表者:田丸潤一
●本社所在地:岐阜県高山市奥飛騨温泉郷一重ケ根365番地1
●創業:1960年1月1日
●設立:1963年4月8日
●従業員数:26名(2026年7月31日現在)


監修=中村秀樹 文=松本壮平 イラスト=丸山哲弘