住友建機株式会社SUMITOMO

「生産性UP」&「勤怠管理」
働き方改革の“本丸”攻略法

「働き方改革」の名のもと、2019年4月に施行した改正労働基準法が、5年の猶予期間を経て、いよいよ2024年4月に建設・土木業でも適用される。
他業種より猶予期間が長かったのは、この業界の「改革」がそれだけ難しいということだろう。
本格導入まで2年弱。二大キーワードの「生産性UP」「勤怠管理」から、建設業界の働き方改革をみていこう。

今すぐ着手すべき、2つの理由

そもそもなぜ建設業界に「働き方改革」が必要なのだろうか。建設業界の動向に詳しい建設ITジャーナリストの家入龍太さんは、長期的な理由と短期的な理由の2つがあるという。

まず長期的な理由としては圧倒的な人手不足。
「建設業界は1つの現場にさまざまな会社の大勢の人たちが集まって、手作業でモノをつくります。ゆえに機械による自動化が難しい。しかも日本では年以上にわたって生産年齢人口が減り続け、建設技能労働者数はピークの年に比べ100万人以上減少しています。この流れはこの先も変わりません」つまり今後、社員や作業員の確保がますます困難を極めるようになるということだ。

もう1つの短期的な理由としては、19年4月1日に政府が施行した改正労働基準法が、24年4月から建設・土木業にも適用されることが挙げられる。いわゆる「2024年問題」だ。
「具体的には労働時間が原則月時間、年360時間以内に規制され、違反をすると6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。この2つの理由によって、今すぐにでも働き方改革に取り組まなければならないのです」

対策へのアプローチ、手段は2種類

では、具体的にどのような対策が必要か。今後社員を増やせない状況で、現状以上の作業をこなし、利益を上げるためには、労働生産性の向上が不可欠。そのためには2つの方法しかないと、家入さんは断言する。
「1つは必要人員の削減、つまり省人化。2つ目は労働時間の削減です。この2つが基本的な戦略となります。そしてこの2つを実現するためには、デジタル技術を導入し、設計や施工、維持管理などの仕事の進め方を抜本的に変えるのが近道です」

「改革の方程式」はロボットが解く!

家入さんの説明を図式化すると、図表1のようになる。これが正しく、働き方改革の「方程式」だ。この方程式を解くカギは、「人数」と「労働時間」の双方を減らすこと。ここではまず、人数を下げるための方策を見ていく。

家入さんは、人数減を検討する際のポイントについて、「肉体労働はロボットに、頭脳労働はAIに仕事をさせること」と明言する。
ロボットというと大手企業だけのものだと思いがちだが、最近では中小企業でも導入しやすいICTデバイスや建機が登場している。

必要人員の削減

最初の一歩は「ICT建機」で!

近年登場しているICT建機には、ひと昔前なら考えられないような機能がついているものが少なくない。
例えば住友建機の油圧ショベルの「SH200-7」は、インターネット(パソコン、スマートフォン、タブレット)と接続することで、オフィスや外出先から機械情報をリアルタイムに確認できる。これにより作業のさらなる効率化や予防整備性の向上などが実現できる。
さらに、作業性能もすべて一新した革新的な油圧システムによって、作業効率の大幅な向上やサイクルタイム短縮と操作性の両立を実現している(詳細は下の囲みを参照)。

既存の建機に機器を後付けすることで、圧倒的な作業効率アップを図ることも可能だ。その1つが、油圧ショベルに装着できるチルトローテータ。これはバケットを360度回転させられる機械で、従来よりも楽に工事を進めることができ、時間短縮に貢献できる。こうしたアタッチメント建機は、導入コストが安く済むという点も大きな魅力だ。

生産性向上を実現する油圧ショベル「SH200-7」

住友建機の油圧ショベルSH200-7 は、G@Nav(ジーナビ)を標準装備しているため、パソコン、スマー
トフォン、タブレットなどを使用して、オフィスや外出先から機械情報をリアルタイムに確認できる。これ
により得られるメリットは、大きく以下の4つ。作業の効率化や安全性の向上を実現できる。

①情報のスピーディな取得 
機械の稼働情報を地図上で速やかに確認。さらに、アラカルト表示による直観的な操作が可能なダッシュボード機能により、会社や販売店の持つ機械情報を一目で見ることができる。

②安全やセキュリティの追求
機械に発生した警報情報を、マーク表示で迅速に把握。現場の安全向上につながる。位置や時間を指定して盗難防止の設定もでき、盗難抑止機能が作動した際は、素早い通知を受け取ることが可能になる。

③管理作業の効率化
機械の稼働時間や状態を、日、週、月ごとなど期間単位で確認可能。燃費や負荷などの情報を元に、作業の効率改善に役立てる。また定期整備情報も知ることができ、オイルやフィルタの交換時期の早期把握や、予防保守管理を徹底することによる機械トラブル低減を実現できる。

④レポート機能の使用
機械や通信におけるトラブル情報や、稼働時間、整備予測をレポートで確認できる。各種機械情報はダウンロードすることが可能であるため、自社内での報告書作成といった業務も効率化ができるだろう。

「SH200-7」製品詳細ページはこちら

さらに、運転席にいながら270° ものワイドな後方視界をチェック可能な「FVM(フィールド・ビュー・モニター)」に加え、範囲内の人の形を感知し、モニター表示などでオペレータに注意を促すお知らせ機能付周囲監視装置「FMV2」を標準装備。衝突軽減システムを持った「FVM2+」もオプションで選べるなど、多彩な現場条件における安全性向上が実現している。

導入&利用が簡単なITツールとロボット

ITツールで家入さんがおすすめするのが、「スパイダープラス」などのクラウド型の施工管理アプリ。
現場の記録をそのまま書類にできる。
「例えば、照度計で測定したデータを記録し、そのまま帳票に出力できるため、事務作業の負担が大幅に減らせるのです」
機器の導入を選択肢に加えるなら、さらなる効率化が可能だ。

その1つが、現場資材を運ぶネコ車を電動化する後付けタイヤの「ECatKit」。モーターが内蔵されており、早く楽に運べるので省人化・時間短縮につながる。価格も比較的安く、中小企業でも手を出しやすい機器といえる。
さらに大型のロボットを導入する手もあるだろう。家入さんは3つのロボットを「中小建設企業に特におすすめ」と紹介してくれた(図表2参照)。

まずは、機器を運搬、据付するロボットの「ECoCa」。縦、横、高さの3方向に伸びて物を吊り上げて移動する。
機器運搬用のロボット「Carryf」は、真横にも、その場で回転して斜めにも動ける。普通の台車だと内輪差で入りにくい場所にも入ることができ、2、3トンの物を1人で運べる。

部材を掴む動作に特化したのが「Dexhand」。通常、クレーンの操作には資格や玉掛けなどの免許が必要となるが、この機器は免許が必要なく、簡単な講習を受ければ使える。
「これらのロボットを使えば、重要機器を運ぶために多くの人や仮設をつくらなくて済むため、通常の建機よりもかなり少ない人数で作業でき、作業時間も短縮できます。レンタル化も計画されているので、中小企業でも使いやすくなるでしょう」

大型ドローンで山中の移動も楽々

もうワンランク上の機器を考えるなら、「大型ドローン」という選択肢がある。

例えば山中に鉄塔を建てるような工事の場合、これまでは車が入れない細い道は人が部材を背負って
運んでいた。しかし、輸送重量が30㎏ほどの大型ドローンを使えば、人力に頼る必要がなくなるので、大
幅な効率化、時短化が可能だ。
「費用は数百万円と割高ですが、人の何倍も早く運べるので、費用対効果は高い。人件費と思えば、決し
て高くはないでしょう」

新建材を使い作業効率アップを図る

アプリやロボット以外でも省人化につながる方法はある。進歩的な材料の利用もその1つだ。

「通常のコンクリート打設作業は多くの作業員を必要としますが、鹿島建設と日本コンクリート工業が共同開発した『高流動コンクリート』を使えば、ただ流すだけで液体のように広がり平らになるので、作業員がコテで均等になるように仕上げたり、締め固めをしたりする必要がありません」
これにより、より少ない人数で作業ができる。
また、住宅のコンクリート基礎をつくる際、鉄筋下の型枠は「地面」、縦方向は「プレキャストブロック」のクイックベース工法を採用すれば、コンクリート打設に必要な型枠工と配筋を行うための鉄筋工が不要になる(写真参照)。

「日本建築センターの評定を取得しているので、強度もしっかり保証されています。使わない手はありません」

労働生産性アップの方程式を解くもう1つのカギが「労働時間の短縮」。実現のポイントは、作業時間そのものではなく、とにかく無駄を減らすことだと家入さんは力説する。
「勤務時間の中には無駄な時間がたくさんあります。特に多いのが、移動の無駄。事務所と現場を行き来する無駄と、現場内での無駄な移動がたくさんあって、それが積もり積もると正味の生産時間が減ります。その無駄をいかになくすかがポイントとなります」

労働時間の短縮

アプリの導入で移動を効率化

無駄な移動時間の削減で威力を発揮するのがアプリだ。現在はさまざまな施工管理アプリがリリースされている。その1つ「フォトラクション」は、現場の写真や図面などをリアルタイムに共有できるため、監督者がわざわざ現場に行かなくてもよくなり、移動時間の無駄を大幅に削減できる。

そのほかにも、現場や顧客情報の一元管理や現場や施主との情報共有、工程表作成や受発注作業のオンライン化など、施工管理の一元管理ができる多機能なアプリがある。

デジタル記録ツールで現場の作業時間を短縮

高価なICT機器を導入しなくても、ほとんどの人が日常生活で使用しているスマートフォンがあれば、現場での労働時間の短縮は可能だ。
「iPhone13Proシリーズには3Dスキャナ機能がついているので、点群計測が可能です。これで部屋の中を一筆書きするようになぞりながら撮影すれば、現場でいちいち寸法を測ってメモを取ることなく、とても早く簡単に記録できます。精度も高く、誤差は2、3%ほどですよ」
以前は数百万円もする3Dスキャナでしかできなかったことが、こうしたスマートフォンなら十数万円でできる。使わない手はないだろう。

工事中の現場の空間をすべて記録するのも、時間のかかる作業だ。こうした場面で効果を発揮するのが「RicohTHETA」などの360度カメラ。一度シャッターを押すだけで空間のすべてを撮影でき、位置関係などの説明を書き入れる必要もない。
「現場作業員の省力化・時短化に加え、アプリを使って撮影データをクラウドにアップしておけば、現場の工事の進み具合がどこにいても確認できます。進捗管理がリモートでできるため、管理者は移動の無駄が省けます」
価格も数万円程度なので導入しやすいだろう。

クラウドを利用して圧倒的な時短を目指せ

先ほど紹介した「iPhone13Proシリーズ」で撮影したデータは、クラウドにあげておくとよい。現場に行かなくても、クラウドにログインするだけでデータを確認・共有して、オンライン会議ができるなど、移動の無駄ゼロで事務作業ができる。
また、AR(拡張現実)などの光学技術やテレワーク用のソフト、モバイル機器による音声や動画のリアルタイム通信を使って施工管理業務をテレワーク化したことで、移動時間の無駄を実に5割削減した会社もあるという。
「こうした会社の場合、事務方はクラウド空間に出勤するというイメージです。うまく利用すればテレワークできる人が増え、移動時間を大幅に減らせます」

VR(仮想現実)空間で複数の人たちが作業することも可能だ。一般のVRでは、仮想空間を体験できるのは1人だけだ。しかしこれをクラウド化すると、VR空間に別の場所にいる複数の人たちが同時に入り、目の前に3Dで展開される図面や建築物を見ながら、まるでその場にいるかのように話し合える。これにより遠く離れた現場に行かなくても打ち合わせができるほか、スピーディーに物事が決まる。時間短縮だけではなく、生産性向上に大きく寄与するのだ(図表3参照)。

「さらに、建設中の現場と設計図を重ねて見ることができ、設計図と違うところがあったらすぐわかるので、早く正確に工事ができるのです。究極のテレワーク環境がメタバース。テレワークでできる仕事が圧倒的に広がります」
価格は数十万なので中小企業でも導入しやすいだろう。

一方、あまりにも広大であるため、現場内での移動時間がかかるケースもある。そんな時に重宝するのが、電動キックボードだ。現場内の移動スピードを早めて無駄な時間を削減できる。

「mobby rideがレンタル提供する『モビー』は、料金は乗った距離に応じて払うシステムなので、中小企業でも使用しやすいでしょう」

狭い場所での作業は小型ドローンで効率化

天井裏やダクトの中など、狭い場所の点検はかなり時間を食ってしまう。そんな時、超小型のドローンを使えば、足場を作ったり天井を剥がしたりといった物理的な作業なしに点検できる。かつ360度カメラを積んでいるので、数分で全方位の動画や画像が撮影できる(写真参照)。

「作業時間の短縮に加えて、一度撮影しておけば後の作業も楽になります。例えば天井裏に設備を増設する工事を計画する場合、これまでのように現場に行かなくても、ドローンによる撮影データを見て計画できるのです。これも移動時間の削減になりますよね」
ドローン、コントローラー、VRゴーグルを含めても数十万円程度だという。比較的導入しやすいだろう。

野帳や勤怠管理も最新のデジタルツールに

生産性を上げるためには、移動時間だけではなく、いかに「無駄なひと手間」を減らすかもポイントとなる。例えば紙の野帳から電子野帳へ変えてみるのも1つの手だ。
「通常の紙の野帳を使い、現場で記載した数字や文字、図などをコピーして配ると、ひと手間がかかります。しかし電子野帳を使えば、文字や図が自由に書けるのはもちろん、カメラもついているので画像や動画など、現場のさまざまな情報を柔軟に記録できます」
記載内容はクラウドでシェアできるので、情報を伝えるためのひと手間が削減できる。
クラウドなどのICTは現場の職人だけではなく、事務職などバックオフィスの労働時間短縮にも有効だ。

例えば、見積り積算、人事・労務管理、経理などのデータはそれぞれ独立していて個別に処理しなければならなかったが、近年はすべてを1つのシステム上で処理できるアプリが登場している。
「労務管理では、これまで残業時間を集計して給与計算のソフトへ移して計算していたのを、労働時間は給与計算にも使うし、工事の原価管理でも使う。データをやり取りしなくてもシステム上で共有し、それぞれ有機的にリアルタイムに連動する。つまり、会社全体をデジタルツール化するというか、会社の各部署の動きが全部データ化されてクラウドに集まるというイメージです」

これにより従来の事務作業は大幅に改善される。紙の帳票を見て、残業時間を計算し、それを給与計算ソフトに入力して再度計算する……といった手間がなくなるのだ。大幅な労働時間の短縮になるので、人手不足の職場は助かるだろう。

ここまで紹介してきたとおり、人手不足や長時間労働という課題を解決するためには、ITツールの導入が必要不可欠だとおわかりいただけただろう。ITツールを駆使することで働き方改革を推進するなど、新たな「価値」を生み出したり、捻出できた時間を有効活用したりすることを、デジタルトランスフォーメーション(DX)と呼ぶ。日本政府も企業のDXを推奨している。
家入さんは従来の「カイゼン」とDXのイメージの違いを図表5のように指摘する。だが、まだまだこれからという企業は多い。そうした企業は何から始めればよいのだろうか。家入さんは「タイとタライが建設DXのカギ」と解説する。

「タイ」と「タライ」が建設DXのカギ

「小さなことをコツコツ」それが改革の要諦

「タイとは、デジタイゼーション。紙情報をデジタル化してクラウドに共有することです。タライとはデジタライゼーションで、デジタル変革で成果を上げるということです。そのはじめの一歩としては、例えば『現場写真管理だけ』など、自社の業務に合う、シンプルな機能で誰でも使いやすそうなアプリからテストするのがよいでしょう。それに慣れてから、徐々に施工管理など別の機能をもつアプリを導入していけばよいと思います」(図表6参照)

高齢者はITやクラウドに拒否反応を示す人も少なくない。そのような従業員が多い建設会社の場合はどうすればよいのだろうか。

「こちらも同じく、徐々にステップアップするのが得策です。まずは講習会を開き、最初はスマホでメールを送る、写真をアップする、などという方法を教え、次にスマホでの3Dスキャナの使い方に進むなど、少しずつ難易度を上げていくのです。そうすると帳票、写真、3Dモデルなど、デジタル化する範囲が広がることで作業が楽になり、無駄な移動を削減できるなど、効果を実感できるでしょう」
 
この両方を繰り返し少しずつ実行する。少しタイを増やすとタライの方も増えていく。これを継続することで、仕事の生産性がかなり上がる。
「気がつけば建設DXの世界に入り、生産性が何倍にもなっているということも、決して夢ではありません」

改革に成功している会社の共通点とは

長年にわたって数多くの建設会社を取材してきた家入さんから見て、生産性を向上させ、働き方改革に成功している建設会社の共通点とは、どのようなものなのだろうか。
「国交省の指示だからこうする、という受け身ではなく、自分でビジョンを打ち立てて、そのためにどうするかを考えて行動している会社です」

家入さんが教えてくれたのが、従業員20名ほどのある建設会社のケースだ。この会社は下請けなので、ICT建機を使う必要はなく、そもそも発注元との契約にICT建機を使うという条件が入っていない。にもかかわらず、社長がICT建機をたくさん購入して使用しているという。そして林道工事では3Dソフトで設計図をつくり、そのデータをICT建機に入力すればあとはその通りに掘るだけ。スピーディーに所定の角度で掘ることができるので、通常の建機の4倍のスピードで作業ができている。同社において従来、林道工事は利益率の低い案件だったが、4倍速でできることでより多くの工事を手掛けることが可能となり、トータルの利益が倍増したという。

「この会社の場合、社長が『4倍速で仕事をする』というビジョンを描いて、そのためにICT建機を導入したわけです。これは建機だけではなく、クラウドシステムでも同じ。つまり重要なのは、どのような成果を得たいのかを最初にイメージして、そのために必要な物は何かを考え、導入することなのです」

働き方改革に成功している会社は、たいていの場合、社長が自ら改革の旗振り役として大ナタを振るっている。これからより厳しさを増す建設業界で生き残るためには、何よりも社長のリーダーシップが必要不可欠なのだ。


監修=家入龍太 文=山下久猛 イラスト=佐藤竹右衛門

お話を伺った方

家入龍太氏(いえいり りょうた)

建設ITジャーナリスト、株式会社建設ITワールド代表取締役。
最新機器と技術の導入による建設業界の生産性向上について、発信し続けている。
(写真/石橋素幸)