住友建機株式会社SUMITOMO

【Vol.138】
インフラ整備 雇用対策 災害対応 地方創生
4つの観点で自社を見直す!
「地域密着型」企業の成功方程式

2016年10月に国土交通省が設置した「建設産業政策会議」では、中小建設業に期待される役割として、「地域インフラを整備・維持すること」「基幹産業として雇用を生み出すこと」「災害時の応急対応を行うこと」「地方創生を支えること」の4つの柱が示された。
これらの観点から、地域密着企業として「ポスト五輪」を生き抜くポイントを解説する。

監修:中村秀樹  ワンダーベル合同会社
イラスト:佐藤竹右衛門
文:野澤正毅

天国?地獄? ポスト五輪の建設業界

 震災復興に続き、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックの特需、外国人観光客の急増による観光施設の建設ラッシュと、建設業界は久方ぶりの好況に沸き返っている。
 しかし、そうした状態がいつまでも続くとは限らない。とりわけ、全国規模の大手ゼネコンと地方の中小建設会社では、「近い将来、明暗がくっきり分かれるでしょう」と、建設コンサルティング、ワンダーベルの中村秀樹さんは言い切る。
「大手ゼネコンの仕事は、オリンピック・パラリンピック後も当面は減りません。リニア新幹線、高速道路のリニューアルといった全国規模の大型工事が目白押しだからです。規制緩和を追い風に、空港や有料道路、下水処理施設の運営を受託するといった、ゼネコンの新しいビジネスも拡大しています」
 一方で、地方の中小建設会社は厳しい局面に立たされる。「地方でも公共工事がないわけではありません。しかし、予算削減で発注量が次第に減り、その半面、人件費や資材費が高騰しているので採算が見込めず、利益を出すのが難しくなっているのです」
 若者の建設業離れ、職人の高齢化といった人材難も打撃となって、「2023年頃には、地方の中小建設会社のうち、最大で約30%が廃業に追い込まれるでしょう」と、中村さんは予測している。だが、地方の中小建設会社にも活路はある。キーワードは「地域密着」だ。
 例えば、中小建設会社ならではの小回りを利かせ、地域ニーズにきめ細かく対応するのも、生き残りの一つの道だ。長野県のある建設会社は、地域の地質情報に強く、自治体よりも詳しいデータを把握していた。そのため長野オリンピックの関連施設建設のとき、大手ゼネコンのパートナーとして引っ張り凧となり急成長した。
 このような事例は特殊かもしれないが、どんな建設業者も地域の柱となる可能性をもっている。今回はインフラ整備、雇用対策、災害対応、地方創生の4つのポイントに分けて、詳しく説明していこう。

[インフラ整備]
「地域の土台」として存在感を発揮!

方程式1

 今後、人口減によって新規工事の需要は中長期的には減っていくだろう。そんな中、注目されるのが維持工事だ。
「経済成長期に造られた道路、橋梁、水道などの多くは耐用年数に達し、リニューアルの需要が地方でも急増しています。維持工事は小規模で手間がかかるケースが多いのですが、100万円以下なら競争入札にならず、地元業者でも元請けで受注しやすいという利点もあります」と、中村さんは説明する。
 維持工事の増加を裏づける資料が図表①だ。国土交通省が所管する社会資本を対象に、将来の維持管理・更新費を推計したものである。この資料では、今後の投資可能総額が横ばいになると仮定しているが、その場合、2037年で維持管理・更新費が投資可能総額を上回る。金額では2010年度から年度までの年間で約190兆円が必要と推計され、そのうち約30兆円ぶんが更新できないと試算されている。
 こうした時代のニーズもあり、インフラのメンテナンスを一定期間担当すると、安定・継続的な工事の受注につながりやすいのでおすすめだ。
「インフラの劣化度が高そうな箇所を役所に代わってプロットし、重点的に定期点検するといいでしょう。異常を早めに検知できれば、役所もコストが抑えられるし、災害も未然に防げるので、建設会社の信用が増します」(中村さん)
 実際にインフラの巡回で、地域からの支持を得ている栃木県の川上建設(下記事例を参照)のケースもある。
 例えば、道路の保守を担当しているなら、近隣の水路、電気通信設備、公園といった「自社担当外のインフラ」も一緒に見回り、異常があれば、管理者に通報するとなおよい。一種のボランティアだが「住民や自治体にも喜ばれるし、見つけた補修箇所の工事を依頼されるなど、新たなビジネスチャンスにもつながります」と中村さんは話す。
 

[雇用対策]
過疎化の救世主として振る舞う!

方程式2

“ハコモノ”の公共事業に対しては依然、社会からの根強い批判がある。だが、その半面、公共工事が地域社会を活性化し、地場建設会社の多くが地域経済の中核「コネクターハブ企業」であることも、また厳然たる事実だ(図表②)。建設業は、生産年齢人口の約5%を雇用し、産業の裾野も広いので、地域への経済波及効果が大きいからだ。「例えば、大きなビルを建てるとき、大量の鋼材やセメント、ガラスといった建材、電気や空調の設備機器などが必要です。工事には建設機械がたくさん使われ、大勢の作業員が従事します。作業員が工事現場に滞在すれば、宿泊や飲食、遊興などで地元にカネを落とすでしょう。大型工事はそうやって地域を潤し、雇用も生み出すわけです。地域にヒトが増えれば、建設の需要も拡大するという好循環が生まれます」
 経済波及効果を高めるには、建設会社がヒトやモノを地域から調達することが肝心だ。加えて、建設会社が集めたカネを地域に再投資すれば、地域にカネが回り、雇用をさらに増やすことが期待できる。
「北海道のある建設会社は、建材販売や木材加工をはじめ、水産加工、運輸、ガソリンスタンド、レストランなどに事業を多角化しています。地元の産業を振興し、雇用を増やすためです。お盆や正月、クリスマスなどにはイベントを開催して、地元出身者を呼び戻す取り組みもしています。その町の人口は約5000人ですが、イベントのときは1万人になるそうです」
 公共工事が減る中、建設会社が仕事を安定的に確保し、雇用を守るには、「建設業協同組合方式」も役立つ。建設会社同士がアライアンス(提携)を組み、工事の共同受注、インフラのメンテナンスの分担といったワークシェアリングを行うわけだ。実際に、いくつかの建設業協会などが実施している。
「建設の仕事は波があるので、地方の中小建設会社にとって、社員や建設機械といった固定費の負担は重いのですが、協同組合なら資産を融通し合えます。それに、協同組合ならメンバーの建設会社は発注者からブロックごとに維持点検等の仕事を任されるメリットも得られるでしょう」

[災害対応]
重機&人員の総動員で地元に尽くす!

方程式3

 地域貢献は、「企業のイメージをアップしたり、地域社会での信用を高めたりするために取り組むもの。だから、売上げや利益に直結しなくても構わない」と考えている経営者が多いだろう。ところが「建設業にとって地域貢献は、売上げや利益を大きく左右する」と、中村さんは力説する。
「公共工事の入札は、金額だけで落札が決まるのではありません。例えば、A社とB社が同じ予定価格を出していて、A社が地域貢献によって、工事評点の加点があったとしましょう。その場合、A社のほうが総合点が高くなり、受注に有利になります」
 高校や大学の受験のとき、試験の点数だけでなく、「内申書」も含めて合否が判定されるのと、似ている仕組みなのだ。
 地域貢献と言えば、文化事業や福祉事業といった“非営利活動”を真っ先に連想しがちだが、通常の営利事業活動の中でも、工夫次第でさまざまな地域貢献ができる。インフラ整備を担う建設業であれば、災害対応も立派な地域貢献になると言えるだろう。
 例えば、東日本大震災では、地元の建設業協会が地震発生直後から避難所の耐震診断を行ったり、被災した道路の啓開(けいかい)作業に着手したりして、地元でも高く評価された。
 日常でもできる災害対応としては、前述で紹介した道路などの「インフラの見回り」が挙げられる。インフラの異変を早期に発見し、管理者に通報することで、道路わきのがけ崩れ、トンネルの崩落といった災害の芽を摘むことができる。
 自治体と「災害協定」を結び、地震や台風、大雨のときに地域を見回る体制を整えている建設会社は多いが、「島根県のある建設会社は、災害時の協力にとどまらず日頃から住民に災害時の避難経路をアドバイスし、避難訓練のサポートまで行っています。県からも評価され、防災活動で助成金を受けているほどです」(中村さん)。そうしたきめ細かいサービスが、自治体との関係性を密にするためには必要だろう。
 近年では地域の建設業協会が災害情報を共有したり、自治体等が災害復旧のエキスパートを養成したりするケースも増えている(図表③)。読者の地元でこうした制度がないか、一度確認してみてほしい。

[地方創生]
発想の転換で観光資源を生み出す!

方程式4

 地域密着型の建設会社にとって、事業基盤である地元の盛衰は、死活問題と言っても過言ではない。そこで、地方創生に役立つ地域貢献を、建設業も積極的に果たしていくことが求められる。
 地方創生につながる一つの方策が、地場産業の振興だ。上の[雇用対策]では、北海道の建設会社が事業を多角化し、地元の雇用機会を増やしていることを紹介した。このほか岐阜県飛騨地方では建設会社が林業を手がけたり、愛媛県では建設会社が農作業を手助けしたりと、建設業のノウハウを生かして地域の労働力不足を補いつつ、自社の事業を拡大している例もある。
 もう一つの方策が、地元にヒトを集める観光の目玉づくりだ。「岩手県紫波町では、建設会社がJRの駅前に魅力的な公共空間を生み出し、集客力が高まっています。大分県豊後高田市では、地元の建設会社の主導で昭和時代のレトロな町並みを再現し、全国から観光客が訪れています」と、中村さん。
 イベントで地元を盛り上げている企業もある。
「かつて岡山県の建設会社は、河川工事で集めた流木を薪にして、地域住民に無料で配布するイベントを開催しました。道路には順番待ちの車の列ができるほど人気だったそうです」
 この例では、処分される工事の産物に付加価値を与えており、発想の転換の見本ともいえる。
 地方創生の取り組みでは、地域に自社をそれとなくPRしておきたい。上の[災害対応]で説明したように、地域への貢献度が建設会社の競争力を左右する。中村さんによれば、「地元で愛され、親しまれている建設会社であることも、公共工事を落札する要件の一つ」だからだ。
「例えば、スポーツ大会などの地域イベントに協力する場合、可能であれば会社のロゴマーク入りのジャージを着て、観客の誘導をしたり、清掃したりするといいでしょう。会場に社名入りのカラーコーンを置いたり、バリケードを設営したりするのも手ですね。そうすれば、どの建設会社が地域貢献しているのかを、住民や自治体に印象づけることができます」

地域密着で売上げを伸ばす秘訣

実例紹介

今回紹介した「4つの方程式」を実践している2社の取り組みから、地域に必要とされる会社になるための方法を探る。

●川上建設株式会社
万全の備えで大水害もスピーディに復旧

2015 年の鬼怒川水害では即座に排水にあたった(提供:川上建設)

 栃木県鹿沼市の川上建設は1934年の創業以来、土木建築以外に国道や鉄道といったインフラのメンテナンスを主力としてきた。約100名の正社員のうち、およそ半分が技能員。「地方の建設会社で、それだけの人数の技能員を雇用しているのは珍しいですね」と、中村さんは目をみはる。また、重機約台、作業用車両約100台を常備。災害発生などの緊急時に機動的に対応し、地域での信用を高めるためだ。実際に2015年の鬼怒川水害では、河川氾濫による災害の緊急復旧工事、排水作業などをスピーディにこなし、注目を集めた。
 中小建設会社は、一般に人員や設備をなるべく抱えないようにして、固定費を抑える。しかし、同社はあえて逆を行くことで他社との差別化を図った。「技能員を継続雇用することで、長期的な人材育成ができ、技術のレベルアップにつながっています。施工もほぼ直営化しているので、工事の質が高く、安定しています。また、雇用創出による地域貢献もできます」
 高い技術力は当然、売上げに直結する。それでも同社はあぐらをかかず、地域インフラの定期巡回も行っている。地元の状況を知り尽くし、細かくチェックするので、防災にも役立つと評価が高い。

●大矢建設株式会社
交通誘導、重機体験などで地域に慕われる会社に

学童の交通誘導は先代社長が始めた。同社の地域密着精神を物語る取り組みだ(提供:大矢建設)

 大矢建設は戦後の創業である。持ち前の情熱によって、1959年に地元を襲った伊勢湾台風では、「救援物資より先にドラム缶を送れ」と即座に対応。冠水した国道1号線の約1㎞区間をドラム缶で堰き止めて、周囲の水が引いたあとは土砂を埋め、2週間で再開通させた。
 このように地域の暮らしを支え続けてきた同社だが、2代目の大矢佳正元社長(現会長)は、さらに住民のレクリエーションを充実させようとテニスクラブを建設。また、折しも市街化が進み、交通事故が増加してきた状況を受け、交通安全教育、道路清掃点検、学童誘導などに取り組むようにもなった。
 3代目の大矢金太郎社長になると、地域密着化をさらに推進し、毎回200名以上の子どもが集まる「建設機械体験イベント」を開始した。もちろん“本業”でも小口の仕事を断らず、常に「地域の困りごと解消」を心がけている。そして着工時には社長自ら挨拶に出向き、住民と対話をする機会を増やしている。こうした姿を見た社員にも、地域とのつながりを意識した行動力が自然と備わっていく。経営者の率先垂範こそ地域密着の原動力になることを、大矢建設の取り組みが教えてくれる。