住友建機株式会社SUMITOMO

建設機械を使う作業の
「危険性徹底分析」と「安全への道」

建設業ではいまだ年間367人もの尊い命が失われている(平成24年)。
生産額などは全産業の8~9%程度の規模だが、死亡災害になると全産業の約3分の1をも占め、建設業は死亡災害多発業種とよばれている。
特に、土木工事では建設機械がからんだ作業での死亡災害があまりに多い。
各社、安全対策に努力しているはずだが、事故の内容を分析してみると意外な盲点が見えてくる。
安全対策のどこに落とし穴があるのか。それを知ることが、重機災害を防ぐ決め手だ。

※イラストは、すべて公益社団法人建設荷役車両安全技術協会提供 © 1999SACL

重機による事故対策6つの盲点

1 土木工事で最も死亡災害が多いのは重機の稼働時ではなく移動時。
●重機は、掘削、整地等、何か作業をしている時よりも、現場内の単なる移動、段取り替え等、直接作業をしていない時の死亡災害が多い。
●バックホウは旋回している時よりバックした時の方が危険。
●リスクが低いと思われている作業の中にもリスクが高いものが潜んでいる。

2 バックホウは旋回、後退時だけでなく、前進時にもリスクがある。
●後方、側方に死角が多いのはもちろん、前進時であっても、オペレータはキャタピラの接地面を直接見ることができないなど、安全確認が十分にできない。
●この程度なら大丈夫という危険軽視が事故につながる。
●複数の重機を近接して行う作業、狭隘部での作業は危険と隣り合わせ。

3 重機の作業半径内をバリケードなどで囲うだけではリスクは十分に下がらない。
●立入禁止区域をバリケードなどで囲うのは危険源を明示しているだけ。
●人間は危険軽視の気持ちや、近道・省略行動本能などにより、「ちょっとの間なら大丈夫」と、重機の作業半径内でも平気に立ち入ってしまう。
●バリケードに加え、監視員を配置し「何人たりともそこに立ち入らせない」と目を光らせる措置を講じてこそ立入禁止措置になる。

4 人間の注意力には限界がある。このことを肝に銘じる。
●労働災害に大きくかかわっているヒューマンエラー。
●人間の注意力には限界がある。作業に集中すればするほど安全には注意が向かなくなる。
●人力で締め固め作業をしている人にはローラーの警報音は耳に入らない。

5 安全装置が付いていてもそれを機能させなければ意味がない。
●クレーン機能付きバックホウでの荷上げ作業。作業効率を優先させ旋回速度を落とさないようクレーンモードに切り替えずに荷揚げ作業を行う違反行為がある。
●ここにも、オペレータが「これくらいなら大丈夫」と危険を軽視し、つい不安全行動をする場面が見受けられる。
●進化する機械の機能を完全に生かすことが本質的な安全対策。

6 「工期一番、安全二番」では誰も二番の安全のことを考えなくなる。
●工期を厳守しようとすると、安全は二の次になってしまう。
●「安全と施工は一体である」という信念を現場リーダーが持つことが大切。そうすることにより、作業員が「現場リーダーに従おう」という気持ちが芽生え、基本ルールを守ろうとする行動につながる。

1:土木工事で最も死亡災害が多いのは
重機の稼働時ではなく移動時。

この50年間で、建設業における労働災害は80%以上も減少しました。とはいえ建設業が事故の多い産業であることに変わりはなく、平成24年のデータによると、死傷者数は全産業の20.1%、死亡者数は33.6%を占めています。このうち、土木工事では建設機械を使った作業での死亡災害が多発しています。

平成16~18年のデータによると、重機の移動等(トラック等運搬作業含む)で67人も亡くなっており、これが死亡災害の多い作業の1位です。皆さんが危険だと思っているクレーン、バックホウ等による荷揚げ・荷下ろし等(48人、3位)や、掘削(36人、4位。注=土砂運搬を除く)、舗装(26人、6位)、整地・敷き均し・盛土(24人、8位)などよりずっと多いのです。

具体的には、

  • 仮置きしていたバックホウが邪魔になったので、これに乗り込んで動かそうとしたところ、路肩が一部崩れ、バックホウが約4メートル下の谷川に転落
  • トラックへのバックホウ積み込み作業中、荷台から道板が1枚外れてバックホウが転倒、作業者がバケットの下敷きに
  • 作業終了後、道路を開放するために、バックホウを空き地まで移動させていた際、交差点を左折したところで誘導員が挟まれた

といった死亡災害が発生しています。
こうした作業は、作業中ほどの危険性を認識していないため、油断が生じてしまうのでしょう。
油断しがちということでは、測量・写真撮影等で23人(9位)、重機等の点検・整備等作業で11人(16位)が亡くなっている点にも注意しなければなりません。

測量や写真撮影をしている人が重機に背を向けていたため、後退してきた重機に気付かずに轢かれてしまう。バックホウのエンジンを始動させて状態を確認している際、突然、バックホウの一部が動き出し、修理していた作業員が災害に巻き込まれる。こんな事故が意外に多いのです。

建設機械の中でも、ほとんどの現場で使われるバックホウ関連の事故が多いのは当然ですが、その動作別死亡者数を見ても意外な結果が出ています。掘削作業では、バックで轢かれた事例が35人と最も多く、旋回等による災害の17人(2位)を大きく上回っており、荷揚げ・荷下ろし作業でも、1位は転倒によるもの20人、2位は吊り荷の傾き・落下等13人で、旋回時の接触等は8人で3位です(いずれも平成13~18年のデータ)。
バックホウで最も危険なのは旋回時ではないわけです。というよりも、危険性の高さを認識している作業には十分な注意を払っているから事故率が低くなっていると言えるでしょう。

リスクが低いと思われている作業の中にも、実はリスクが高いものがあるところに安全対策の落とし穴があります。単なる移動であっても危険が潜んでいるのだということを、ぜひとも肝に銘じていただきたいものです。

2 :バックホウは旋回、後退時だけでなく、
前進時にもリスクがある。

掘削作業で、バックホウによる死亡災害が圧倒的に多いのは、後退時に作業員を轢いてしまう事例です。とくに敷き均し・整地作業での事故が目立ちます。作業員がバックホウの行動範囲内で作業しなければならないことが主な原因でしょう。旋回時、側方・後方にいる作業員や、通り抜けようとする作業員が被害に遭う事例も多くなっています。

オペレータの死角が多い後方、側方の危険度が高いのは言うまでもないことです。では、前進時はどうでしょう。前はよく見えるので危険性が低いと思っていないでしょうか。これが大きな間違いで、前進時、機体前方の安全確認が十分にできるとは限らず、道路を移動中、バックホウが路肩に寄り過ぎてしまい、路肩から転落するという事故が少なくありません。排土板を用いた土砂の押し均し作業は、アームを斜め前方に向けて行いますが、この場合もアーム側前方の確認が困難です。

つまり、バックホウを動かしているときは、どんな状況であっても危険だという意識を、オペレータも作業員も持たなくてはいけない。怖いのは、この作業なら大丈夫と思ってしまうことです。

盛土作業では、盛土から下りようと斜面を移動する際の転倒災害が多発しています。アームを持ち上げたまま斜面を移動するため機体のバランスを崩してしまうからです。

機体の安定を保たなくてはいけないことを、オペレータはよく承知しています。だから、アームを持ち上げた状態で山の斜面を下りるようなことはしません。ところが、緩やかな傾斜の盛土なら危険はないと勝手に解釈し、アームを下げる労を惜しむ。どんな斜面であっても、斜面は斜面であり、バランスを崩しやすいことに変わりはないのです。
クレーンもそうですが、機体の安定を保てるギリギリの状態と転倒する状態との差は紙一重です。いったんバランスを崩せば、どんなに優秀なオペレータでも止められません。
これなら行けるという過信が重大な事故を招きます。
複数の重機が近接して行う作業や狭隘部での作業も危険と隣り合わせです。

  • すぐ近くで他の重機が動いているのに、オペレータが不用意に運転席から出て、その重機に巻き込まれる。
  • バックホウとトラックが土砂積み込み作業をしている際、手元作業員、トラック運転手、誘導員がバケットとトラックの間に挟まれる。
  • 坑内や水路内で小型バックホウを動かしていたオペレータが、切梁、既設構造物などと運転席に挟まれる。

といった事故が起こっています。
いずれも、周囲の状況に注意を払っていれば防げた事故です。何よりも重要なことは、いつ、どんな状況で何が起こるのか、オペレータや作業員に認識させることだと思います。それが周知徹底していれば、過信や油断が生まれることも少なくなるはずです。

4:人間の注意力には限界がある。
このことを肝に銘じる。

労働災害にはヒューマンエラーが大きくかかわっています。ヒューマンエラーはさまざまな原因で生まれ、上記で述べた危険軽視や近道・省略行動本能は、その1つです。

他に12の原因(無知、未経験、不慣れ/不注意/連絡不足/集団欠陥/場面行動本能/パニック/錯覚/高齢者の心身機能低下/疲労等/単調作業による意識低下)があり、ヒューマンエラー対策は事故防止の要とも言えます。

不注意については、当たり前ではないかと思われるでしょうが、どれだけ戒めても不注意による事故はなくならないのが現実です。なぜかといえば、人間は1つのことに集中すると他のことには不注意になるからです。言い換えると、他のことに不注意にならないと1つのことに集中できないのです。作業に集中すればするほど、安全には注意が向かなくなってしまいます。このように人間の注意力には限界があることを肝に銘じる必要があります。

舗装工事では、ローラーによる舗装作業の横で、人力による締固め作業を行うことが少なくありませんが、締め固まったかどうかを判断しようとしている作業員は、たとえローラーがピーピーと警報音を鳴らしても聞こえないことがあります。人力による締固め作業では、締固め音は、最初は緩やかで低いのですが、固まってくると高い音に変わってきます。このため、作業員はその音の変化に注意し、時に、警報音すら耳に入ってこないのです。人間には、自分の聞きたい音しか耳に入れない特性があります。

重機との近接作業をしないことが一番だとはいえ、そうせざるを得ないケースが多々あります。だから監視員や誘導員を配置することが重要になるわけです。
ヒューマンエラーの原因について、すべて触れるだけのスペースはありませんが、いくつかご説明すると、場面行動本能は、瞬間的に注意が一点に集中すると、周りを見ずに行動してしまう本能です。例えば、作業員が、手に持っていた工具を落としそうになると、「落とすまい」と、とっさに身を乗り出し自ら墜落してしまう。

高年齢者は、加齢に伴う心身機能の低下によるエラーが心配されます。バランス感覚の低下、とっさにうまく動けない、足腰や視力も弱っている高年齢者は、若者以上にヒューマンエラーにより被災する可能性が高くなります。

集団欠陥も耳慣れない言葉かもしれません。工期が非常に厳しい場合、現場全体が工期を守ることを最優先させ、安全は二の次になることがあります。これが集団欠陥です。いったん集団欠陥に陥ると、現場全体が不安全行動やむなしといったムードに包まれます。非常に怖い状態です。
ヒューマンエラーは必ず起こります。それを前提にリスク低減対策を講じることです。そうしない限り、十分な効果は上がりません。

5:安全装置が付いていても
それを機能させなければ意味がない。

リスク低減対策を優先順位の高いものから挙げると、

  • 危険な作業の廃止や変更
  • 工学的対策
  • 管理的対策(作業手順書の作成、作業者の教育と適切な作業指示、危険予知活動への盛り込み、注意標識など)
  • 保護具などの使用

ということになりますが、重機に関しては、重機を使った作業そのものをなくすことが難しい限り、工学的な対策が最も効果的で、本質的な対策でもあります。メーカーの技術が向上し、安全を確保できる機種が登場しているので、そういう機械を積極的に使うということです。
例えば、超小旋回形油圧ショベルは、窮屈な現場でカウンターウエイトに挟まれる事故を防いでくれます。バックホウの転倒災害を防ぐには、EOPSのような運転席保護構造の機種が有効です。転倒しても、フレームがしっかりしているので、シートベルトを締めてさえいれば、オペレータを守ってくれます。

オペレータによる重機の後方確認、死角を生じさせないという点では、住友建機のFVМ(フィールド ビュー モニター)がお勧めです。空からの視界で270度の範囲をカバーするという発想は斬新で、素晴らしいものだと思います。これが普及すれば、バックで轢かれる労働災害は大幅に減少することでしょう。
ただ、注意していただきたいのは、こうした最新機能を導入しただけで安心しないということです。

最近はクレーン機能付きのバックホウがかなり普及しています。クレーンモードにしておくと旋回速度が遅くなり、機体を安定させることができるこの機械は、事故防止に大きく貢献しました。
ところが、旋回速度が遅くなるのを嫌って、クレーンモードにしないで操作するオペレータがいます。こうした違反行為は大変危険です。
せっかくの機能を使わないのは、面倒臭いと思う心理と自信過剰によるものでしょう。面倒なことをしなくても、自分の操作技能なら大丈夫だという思い込みから違反行為をし、とんでもない事故を起こしてしまうのです。

安全機能が付いているからといって必ずしも安全ではなく、その機能をオペレータが確実に活用することが本当の安全につながります。優れた最新機を生かすも殺すもオペレータ次第。これが、絶対に見逃してはいけない工学的対策のポイントです。

ベテランのオペレータは慣れているが故に、つい不安全行動をとってしまうことがあります。時に、自らの技量を過信し、機械の能力の上限を超そうとする違反行為を犯す。エンジンを掛けたまま運転席から離れようとし、身体の一部が操作レバーに接触して誤作動を起こす。近道・省略行動本能がある以上、常にこうした不安全行動をとる恐れがあります。それを強く認識していただきたいと思います。

6 :「工期一番、安全二番」では
誰も二番の安全のことを考えなくなる

ある建設業協同組合から調査を依頼されたことがあります。会員42社の中で、2ヵ月間に6件の労働災害が発生したからです。私は、事故が起きた会社の工事担当責任者クラスに話を聞きました。すると、「運が悪かった」「今回はたまたま」「作業員がもっと注意を払っていれば」など、当事者意識の低い答えばかり返ってきて、唖然としたものです。

6件の労働災害は、後退してきたバックホウに轢かれる、法面上からの転落など、全国的に死亡災害が頻発しているものばかりだったのに、偶発的なものだと受け止めてしまう。ここに安全対策の根本的な問題があります。

わが国の建設業許可業者数は48万社余りで、休業4日以上の死傷者数は2万2851人(平成24年)、単純に年換算すると21社に1社しか死傷災害は発生していません。死亡災害(367人)に至っては1318社に1社です。このため、災害が発生しても、ほとんどが「たまたま」と考えてしまうのでしょう。
これでは実のあるリスク低減対策を実行することはできません。重機の怖さを本当に理解できるよう、もっと踏み込んだ教育をすべきです。

さらに、最も重要なことは、現場のリーダーが強い信念を持ち、現場を引っ張っていくことです。
逆に、工期を守ろうとするあまり「工期一番、安全二番」と標榜するのは絶対に避けなくてはなりません。これでは、誰も二番の安全のことは考えなくなります。上記で集団欠陥について触れましたが、日本人は目標が決まると、良かれ悪しかれ、目標に向かって邁進する特性があります。そのため、工期一番に引きずられて、いつの間にか危険軽視の行動をとってしまうのです。
基本ルールを守らせるには「安全と工期、ともに大事!」という信念を持って現場を引っ張っていくことです。

ある中堅運送会社の社長は、ドライバーに「納品時間に遅れそうになっても安全運転しろ。遅れたらお客様に謝ればいい。謝っても許してくれないときは私が謝罪に行く」と言っているそうで、これが功を奏して長年、無事故無違反を続けています。

リーダーの姿勢が安全確保のポイントであることがよく分かります。建設現場でも、リーダーが「安全と工期、ともに大事!」という強い信念を持ち続ければ、作業員は「あの人の言うことを聞こう」とし、基本ルールを守ろうとします。そして、厳しい工期であっても「何とかならないものか」とみんなで考えます。

そこから創意工夫が生まれます。そうなると現場の安全対策はもとより、安全以外のところにも目を向けるようになり、無駄なこと、無理なことをしなくなり、コストダウンにもつながっていきます。まさに、「安全が利益を生む現場」になっていきます。
現場リーダーの皆さんには、ぜひその中心的担い手になっていただきたいと思います。