住友建機株式会社SUMITOMO

【Vol.137】
朝礼で、現場で、経営会議で!!
今日から使える「格言」大図鑑

2年後に迫った2度目の東京オリンピック。1964年の第1回東京オリンピックは日本の経済成長を象徴するイベントだった。しかし、今、状況は様変わりしている。景気に影を落とす少子高齢化は歯止めが利かず、55歳以上の人員が全体の37%を占める建設業界は「もっとも高齢化した業界」の一つになっている。
この時代の経営者はどうあるべきなのか。今回は格言から、その答えを探る。

監修:中村秀樹 ワンダーベル合同会社
イラスト:佐藤竹右衛門
文:山﨑哲朗

オリンピック後に生き残る会社、消える会社

オリンピック後に生き残る会社、消える会社

「東京オリンピックを境に不況が訪れると身構えている建設業者の方も多いと思います。ですが、仕事は減りません! 深刻なのは〝2022年問題〟に対応できる会社が少ないことです」
 そう話すのは建設コンサルティング・ワンダーベル合同会社の中村秀樹氏だ。2022年問題とは、建設に携わる団塊世代が後期高齢者に突入し、ベテランの働き手がいなくなることを言う。中村氏は「オリンピック後には業界全体で100万人規模の人材不足時代が訪れる」と指摘する。

 一方で、「インフラの保守・点検・改修業務は、オリンピック後ますます増えます。それに、大規模災害などに対応するため、国は地域の建設系企業に人も機械も置いておかなければいけないと考えています。2022年問題の本質は〝仕事はあるのに若い働き手が足りない〟という事態です」。考えるべきは仕事がなくなることではない。若い働き手を業界に定着させ、ベテランから技術や建設の文化を伝えていくことなのだ。
 このような、変化の時代にあって経営者は孤独だと中村氏。
「私のセミナーに来る方でも、〝俺のやり方で本当にいいのか不安になるよ〟と話す経営者は大勢います。しかし、経営者本人が不安がっていることが社員に伝わると、士気に影響します。そういう弱気になった経営者に私がかける言葉は〝先を見据える。勇気を出す。やってみる〟です。経営者には決断力・行動力が求められるからです」
 そうは言っても、大きな決断は気軽にできるものではないが、そんなときは先人の言葉に学ぶといい。業界は違えど、有名な創業者たちも、円高やオイルショックなどを乗り越えてきた。
「彼らの言葉を参考にしない手はありません。事実、一つの言葉で会社全体が強くなった例はたくさんありますよ」
 ここでは決断を後押ししてくれる格言を取り上げてみたので、ぜひ参考にしてほしい。

言葉が人を鍛え、人が会社を強くする

言葉が人を鍛え、人が会社を強くする
言葉が人を鍛え、人が会社を強くする

「私が感銘を受けたのは、映画『黒部の太陽』の題材にもなった黒部トンネルをつくり上げた熊谷組の話です。難工事をやってのけたという自負を共有するため、どんなときでも〝我々は黒部トンネルをつくった。だからどんなことでもできる〟と言い続けているのです」
 このやり方は工事や会社の規模とは関係なく、あらゆる組織で取り入れることができる。
「他社が尻込みした現場、できなかった仕事などを象徴的に言い続けると、社員を勇気づけ、仕事に誇りを持たせるきっかけになります。大切なのは規模ではありません。〝自分達しかやってない仕事〟なのです。業界問わず熊谷組方式で結束を強めている会社はたくさんありますよ」
「俺は伝説の難工事をやり遂げた会社で働いているんだ」という帰属意識や誇りを芽生えさせることは、若手社員を定着させるうえで不可欠だ。近年、建設業界では、若手社員の出入りの激しさが問題になっている。人が抜けてもすぐに代わりが入ってくれば、深刻な人材不足には陥らない。しかし、人材が定着しないと技術の継承もままならず、現場を知るベテランの抜けたオリンピック後を考えるとマイナスでしかない。
 中村氏は、「人材獲得のため、重機操作の技術を競うコンテストなどで仕事の魅力を伝える企業はたくさんありますが、肝心なのは〝今、働いている人〟のモチベーションを高めることです。それができていないと、新たに人材が加わったとしてもすぐに辞めてしまう。現に、人を大切にして結束を強めてきた会社では、赤字が続いていても〝社長が諦めてどうするんですか! 俺たちも一緒に盛り返しますよ〟と、社員が経営者を勇気付けるものです」と、自身のセミナーに参加したある経営者の逸話を教えてくれた。
 このような組織では格言がうまく活用されている。
「熊谷組でも毎回の朝礼で黒部トンネルを引き合いに出し、モチベーションを高めています。ここぞというときに心と頭に残る印象的な言葉は効果的ですよ」
 この両ページでは、結束力を強め、若い世代の成長を促す格言を「一日のスタートにぴったりの言葉」「部下・後輩に響く名フレーズ」として選んでみた。明日の朝礼から活用してみてはいかがだろう。

施工のセオリーは格言の中に潜んでいる

施工のセオリーは格言の中に潜んでいる
施工のセオリーは格言の中に潜んでいる

 よい格言の定義は二つ。迷ったときに背中を押してくれるものと、油断しがちなポイントで注意喚起してくれるものだ。
「背中を後押ししてくれる言葉」は前ページまでに紹介したので、この両ページでは、仕事に潜む「落とし穴」を気づかせてくれる格言を選んだ。特に若い世代に技術を伝える際には、これら頭に残りやすく、ハッとさせる格言は効果的である。
 これらのうち中村氏が「私のセミナーで話すと必ず共感される」と言うのが、「〝伝えた〟ではなく〝伝わった〟にすること」。意味は上に書いた通りである。共感されるということは、それだけ多くの人が、「俺が言ったことを、相手は理解しているはず」と思い込んだゆえの伝達ミスを経験しているのだろう。
 また、業界に伝わる格言や慣用句の中には「そんなの迷信だろう?」と思えるものも少なくないが、すべてを一笑に付せないところに格言の強さがある。
「島根県松江市・藤井基礎設計事務所の藤井俊逸氏、松浦聰氏らは土質の格言を分析し、施工の着眼点をあぶりだす研究を行っています(詳細は下記「土質に関する5つの心得」を参照)。1000年以上の歴史を持つ業界で言い伝えられてきたからには、何らかの意味があるはず。そうした言葉を活用すれば、伝統を理解し、仕事に誇りをもつことにもつながります」
 こう語る中村氏が「今まででもっとも印象的だった格言の一つ」として挙げたのが、「図面上の排水は必ず逆を見ろ」。図面を鵜呑みにせず、必ず現場を目視せよと戒める言葉だ。
「20代のころ、ある現場でこの言葉を思い出し、排水を確認したところ、図面が左右逆であることに気づきました。私が格言の大切さを実感した出来事です。格言は活用次第で、ミスの防止にもなるし、仕事にやりがいを感じてもらうツールにもなります。朝礼や現場の作業開始時にうまく活用してみてください。その際に気を付けてほしいのは、説教臭くならないことです。〝ええこと言ったぞ〟と自己満足するのではなく、話題のニュースに絡めるなど、聞く人が楽しめる工夫をしてほしいですね。あくまで押しつけがましくなくですよ。でないと若い人は聞いてくれませんからね(笑)」
 中村氏のように、自らの体験談を交えて格言を語れば、部下や若手には大きな「学び」にもなるだろう。

ホントは怖い業界の忌事

 格言について語るなかで中村氏が特に熱を込めたのは、業界の慣習に関することだった。
「若い経営者に“鬼門”を知らない人が増えている。建設業では重大な信用問題になりますよ!」
 怒りとも、呆れともつかない口調に危機感が読み取れる。
 鬼門(北東)は古来「鬼が出入りする方角」と言われ、 “水回りや玄関を置かない”ことは家づくりの基本だ。鬼門をはじめとする忌事は、建設業界のみならず、慣習として日本社会に深く根付いている。
「昔は施主が言わなくても施工者が鬼門を避けるのが普通でした。しかし、最近では施工後に“玄関が鬼門に当たっている”と、施主の怒りを買うケースもある。そういうことがあれば、 “あそこに頼んだらどんな家にされるかわかったもんじゃない”と会社の信用はガタ落ちですよ。慣習というものはバカにならない」

地鎮祭をなぜ行うのか?

 鬼門に限らず、儀式やゲン担ぎは、施主が「そういうことは気にしないから自由にやってください」とでも言わない限り、「配慮して当たり前」と思われている可能性が高い。
 上の図で紹介した「古井戸は勝手に埋めるな」の格言は、施工業者が陥る施主や地域とのコミュニケーション不足を戒めるものだ。そのほか塚、祠、無縁墓などは、地域独特の文化の中で何かしらの重要な役割を担っている可能性があるため、十分に注意して取り扱うべきだ。
 施工現場にこうしたものがあるときは、①地域の古老や代表者と話して了承を得る、②必要があれば地域の習わしにのっとり供養などを行う、という丁寧な手順を踏んで対応したい。
 中村氏は「他にも、地鎮祭や古井戸を埋める儀式の段取りなど、建設業者というものは施工以外のふるまいも厳しく見られていることを忘れないようにしましょう。ご高齢の方が多い地域では、そういう部分で会社のレベルがすぐに知られることにもなります」と話す。
 格言や言い伝えとして残っているもの、生活の中に根付いているもの。その現れ方はさまざまだが、建設業は土地とそこに住む人たちと深く関わる業界だ。「自分は迷信を気にしない」と軽視せず、「文化」として理解し、最大限の配慮を忘れないように心に留めておきたい。

土質に関する5つの心得

 藤井基礎設計事務所の藤井俊逸氏、松浦聰氏は、建設業界で語られる言葉を分析し、その科学的根拠を明らかにしている。上にあげた言葉は、その一部だ。両氏は、現場で突き当たる土質の問題は、土の色や植物を見て診断可能であることから、「自然こそ名医なり」と評している。
 両氏が研究対象にした言葉は土に関するものが多い。このことは、現代の建設現場において切土に関わる事故が非常に多いことと無関係ではあるまい。
 昔から「扇状地の切土は要注意」と言われてきたが、これは的を射た表現である。扇状地は砂礫を主体とした土地で地耐力は強い一方、地下水位が高く、のり面崩壊や下流の水枯れを起こす場合があるのだ。
 切土に関しては、「切土跡の湧水と周囲のクラックを定点観測する癖をつける」「切土面から小石がパラパラ落ちてきたらすぐ逃げる」など、心に留めておくことで身を守れる言葉は多い。過去には斜面に杭を打ち、その間に縄を通すことで、その「たるみ」から地すべりを把握した歴史もある。自然を相手にする場合には、やはり自然が名医となりえるのだ。