円満に工事を進めるため十分な心配りをしていますが、予想外のきついことを言われ、戸惑ったことがあります。工事範囲を確認するための境界杭をチェックしていると、隣地の地主がやってきて「こちらには絶対入らないでください。先祖から受け継いだ田畑は私の宝物です。砂利が少しでも入ったらこの道を通しません」というのです。こういう人にはどう対応すればいいのでしょうか。
地主の真意を読み取れれば、
不満の矛先を変え味方になってもらうことも可能に
Q
A
イラスト 佐藤竹右衛門
砂利が入ることも許さない、というのは確かにきつい言葉です。地主が相当な不満を持っていたことは確かでしょう。問題は、その原因が何なのかです。
地方のバイパス工事などでは、用地交渉におけるトラブルがしこりとなって、地主が工事にケチをつけることがあります。役所への怒りを施工会社にぶつけてくるわけです。ですから、スムーズに工事を進めるためには地主の言葉の裏を読み、本当に言いたいことを探る対人力(人間関係を維持して優位に工事を進める言動力)が必要です。
真意を探るためには「あっ、なるほど」と相槌を打ち、「~ということですね」と相手の言葉を繰り返すオウム返しのテクニックなどを使いながらうまく話を引き出すことです。「砂利が少しでも」という言葉には「工事への不安」、「この道を通しません」には「建設会社への不信」があるのかもしれません。
とくに注目したいのは、「先祖から受け継いだ宝物」という表現です。この言葉から、土地への愛着が非常に強いことがうかがえます。
「この土地は自然が豊富でいいですねぇ。工事のために土地が減っていくのはもったいない気がします」と言ってみて、「君もそう思うだろう。それなのに役所は都合のいいように土地を取り上げる」という反応が出てくるようであれば、用地買収への不満を持っていることが想像できます。
役所に不満を持っているのかどうかはさておいて、こういう場合は何度も会って話を聞き、土地を愛する心情に寄り添ってあげましょう。
親しくなってくると本当の心の中を吐露し始めるようになります。そうしたら「ご先祖様はそういうことまでやっていらしたんですか。だから、この土地を大事にされているんですねぇ」というふうに共感し、同情してあげるのです。悩みは人に話すとスッキリするといいます。だから聞き役になることが大事なのです。
そのうちに「あんた、また来いよ。境界のことなんて気にしなくていいよ」と言ってくれるようになり、工事がしやすくなります。ほかの場所でクレームをつけられて苦労していることを話したところ、「あそこはうるさいんだよ。俺が行って話してきてあげるよ」と調停役を引き受け、トラブルを解決してくれたという実例もあります。味方になってくれたわけです。
相手に不安、不信、不満があるときは、不安を「安心」に、不信を「信頼」に、不満を「満足」に置き換えるような対応をすることがトラブル回避の方法です。その方法は上手な聞き役になることに尽きると思います。
解説
中村秀樹(なかむら・ひでき)
ワンダーベル合同会社 建設コンサルティング&教育
名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路、新幹線の橋梁工事などに従事。
建設マネジメントの実践、建設技術者教育で活躍。