入社2年目の若手が下請とギクシャクしています。発端は下請職長に「この丁張りおかしいんじゃないの」と指摘され、「図面どおりなので大丈夫です」と答えたことでした。そのまま施工したところ、仕上げが波を打ったようになり、やり直しせざるを得なくなって以来、その職長と気まずくなっているといいます。下請と良い関係を築けるよう指導するにはどうしたらいいでしょうか。
現場の人は怖い。
この先入観が消えれば
新人も下請とうまくやっていける
Q
A
イラスト 佐藤竹右衛門
今の建設現場は1人で担当することが多くなっています。したがって、下請と一対一で向き合うことになり、2~3人で担当する現場と違って人間関係の悩みが深くなりがちです。それが原因で入社3年以内に辞めていく割合が高くなっています。
定着率向上の鍵は対話力を鍛えることです。新人のほとんどは現場の人たちのことを怖い、厳しいと感じています。実際には優しい人ばかりなのですが、ヘマをすると怒鳴られると思い込んでいます。この先入観が必要以上に現場の人たちを恐れさせ、より良い対話を妨げるのです。
ご質問のケースでも、職長は疑問を提示しただけなのにとがめられたように思ったのかもしれません。これでは対話は生まれません。本当は「大丈夫のはずですが、ベテランの○○さんから見ておかしいところがありますか。やはり経験が物を言う世界ですから教えてください」と、学ぼうとする姿勢を示せば良かったのです。
「俺の経験から言ったらこうだ」と答えてくれたら、「あっ、そうですか。なるほど」と相づちを打ちながら素直に聞いていれば、相手は気持ちよくいろんなことをアドバイスしてくれます。で、次に会ったときには「この前はありがとうございました。また教えてください」とお礼を言う。すると「おー、何でも聞いてくれ」ということになり、ものすごく仲良くなれます。
ただ、それだけの対話力はすぐには身につきません。まずは先輩や上司が下請との人間関係を取り持ってやることです。「こいつはヤル気はあるんだけど、ひとこと足りなくてもどかしいから助けてあげてよ」と声を掛けておけば「分かった。まかしておけ」と言ってくれるでしょう。
半年、1年たち、自分が思っていたほど怖い人じゃないと実感し、素直に教えてもらえばいいのだと分かれば、下請との関係で悩むことはなくなり、定着率は向上します。
仕事を進める上でコミュニケーションの取り方は重要ですが、実は先輩や上司も若い人とどう接していいか分からず、苦慮しているのが現状です。地方には30代の社員が少ない会社が多く、40代以上の人が20代や10代の新人を直接指導するしかない状況になっています。
世代間ギャップが大きいと共通の話題を見つけにくいものです。お勧めしたいのは失敗談を話すことです。自分の体験を話すことは効果的なコミュニケーションの方法で、とくに失敗談は興味を持って聞き入ってくれます。こうした形で雑談を重ねていくうちに対話力が鍛えられ、現場で生きてくるでしょう。
解説
中村秀樹(なかむら・ひでき)
ワンダーベル合同会社 建設コンサルティング&教育
名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路、新幹線の橋梁工事などに従事。
建設マネジメントの実践、建設技術者教育で活躍。