人手不足のため、年度末など忙しい時期に現場への十分な支援ができていません。そんな中、長時間労働の疑いがあるとして、労働基準監督署の立ち入り調査を受けましたが、早急に是正するのは難しい実情があります。どう対応したらいいのでしょうか。
少しでも改善しようとしているか。
労基署監督官はそこを見る
Q
A
イラスト 佐藤竹右衛門
最近、工事現場への臨検が増えてきました。その背景にあるのは、①建設業における長時間労働是正の動き、②36(サブロク)協定の最大時間外労働時間(残業)を月80時間(残業)を月時間というように提出している場合、その実態を調べようとしてマークされる、③社員の内部告発───です。
工事現場では仕事が終わった後、しばらく事務所で雑談したり、テレビを観てから帰るということがあり、日報に事務所を出たのが夜9時と書かれていても、それが仕事を終えた時間とは限りません。
労働時間の実態を、会社が正確に把握するのは難しい面があります。そういうこともあって、残業代を含めた形で現場手当を出し、労働時間は自分たちで管理してもらうのが業界の通例でした。
しかし、もはやこのやりかたは認めてもらいにくくなっています。過労死が社会的な問題となり、政府が働き方改革を進める中で、労基署はこうした建設業独特の慣習についても厳しい目を向けるようになりました。現場手当と実際の残業時間との間に大きな差があれば、時間オーバーしている分の残業代が未払いだという指摘を受けてしまいます。日報に記載されている時間まで働いてはいないのだと主張しても、それを実証できるのか、何をもって仕事が終わったことにするのか、明確な規定はあるのかを問われるでしょう。
労基署に聞いたところ少しでも「良くしようとする姿」を見せてほしいと言っていました。是正指導を真摯に受け止めて改善計画に取り組み、「この点についてはまだ改善できていないが、これからこうしていきます」と、定期的に報告する姿勢を重視するそうです。最悪なのは指導を無視することで、労基署は無視されれば態度を硬化させ、より厳しくなります。
問題は、労基署に申告した残業時間をオーバーしているのに、その分の残業代を払わないケースです。これが内部告発を生むことになります。告発されないためには社員との信頼関係を築くことです。現場が大変な思いをしている多忙期、会社が知らん顔しているようでは社員は怒ります。暇な現場から応援を出す、雨の日は早く帰してあげる、といった心遣いをしていれば、そう不満は強くならないはずです。
作業時間のシフト制の採用や残業時間の代休取り扱い要領、および時間単位の有休取得を検討してください。実際に上手く運用できるかが問題ですが、労使双方で努力をお願いします。
改善についてアドバイスすると、可能であれば自宅と現場の直行直帰をお勧めします。これなら会社と現場を行き来する時間が省かれ、労働時間を短縮できます。仕事の少ない時期には休日を多くしてあげるか、早く帰れるようにしてトータルの労働時間を減らすことも一考の価値ありです。
解説
中村秀樹(なかむら・ひでき)
ワンダーベル合同会社 建設コンサルティング&教育
名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路、新幹線の橋梁工事などに従事。
建設マネジメントの実践、建設技術者教育で活躍。