仮囲いや材料置き場のバリケードなどの仮設物を通行人が触って、「衣服が汚れた」「手をこすってケガをした」などの苦情が寄せられることがあります。私たち施工会社はどこまで責任を負えばいいのでしょうか。あるいは、クレームに対してうまく受け答えをして、大事に至らないようにするにはどうしたら良いか教えてください。
通行人から苦情を受けたときは、
“質問に徹する”ことが解決の肝
Q
A

工事現場周辺の仮囲いやフェンス、敷鉄板など仮設物は施工会社の管理下にあります。そのため、フェンスが倒れたり、突起物に引っかけて通行人がケガをした、衣服が破けたとか、強風でシートが飛ばされて近隣に被害を与えたりした場合、当然その責任を負わなければなりません。加入している第三者賠償責任保険を使って、損害賠償に応じることは必要なリスクヘッジでしょう。
特に公共工事を請け負っている施工会社の場合、被害者が役所に訴えるような事態になると困りますので、元請けとしての管理責任を重視するべきです。
そうした苦情、クレームがあったときの、対応方法のポイントをいくつかご紹介します。
まず大切なのは真っ先に謝罪するのではなく、「ご迷惑をおかけしました」と相手を気遣うことです。故意で嫌がらせをされた場合でも、謝罪するとこちらの非を認めることになります。ただし、明らかに施工側の責任であればすぐに謝罪した方が良いです。最近は減りましたが、かつては反社会的な人たちが被害を装い、クレームを付けてくることもありました。相手の様子をよく観察して、故意に発生した事態かを見極めましょう。
次に気をつけるべきことは「弁解しない」ことです。「予想外の強風でフェンスが倒れました」などと釈明すると、「この程度の風で倒れるような対策しかしていないのか」などと言葉尻を追及されてしまう可能性もあるので、こちらからは質問に徹することが大切。例えば、「どこの段差でつまずきましたか」「どこの突起物に引っかけたのですか」など事実を確認しましょう。
自動車が塗装で汚れたとか、傷を付けられたという場合、自動車の被害とともに現場の状況を確認してください。損害の算定は保険会社に任せて、客観性を確保しましょう。その場で修理代のやりとりは厳禁です。
また、前述したように、公共工事では発注者である行政に責任が及ばないように気をつけましょう。一方、民間企業の工事では、苦情が施主のマイナスイメージにつながらないような慎重な対応が求められます。
かつて天ぷら屋の油で汚れた床で転倒した人が店主を訴えた事件では、一審で被害者の不注意と判決を受けたものの、二審では店側の管理責任を問われました。工事現場での転倒事故でも、同じ結果になる可能性が高いでしょう。基本的に、施工会社はケガなどの不祥事を起こしてはいけないのです。訴訟となった場合、安全管理の徹底が問われます。スポンジなどで突起物を保護していたのか、塗装時に周辺へシートをかけていたのか、見回りは充分だったのか。あとから問われる前に、地道な安全対策を徹底しましょう。一方、相手から罵声を受け、空き缶を投げつけられるなどの行き過ぎた行動があれば、動画などの証拠を残した上で、業務威力妨害として警察に通報するべきです。悪質な嫌がらせには、毅然と対応することが大切でしょう。
構成=吉村克己 イラスト=佐藤竹右衛門
解説
中村秀樹(なかむら・ひでき)
ワンダーベル合同会社 建設コンサルティング&教育
名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路、新幹線の橋梁工事などに従事。
建設マネジメントの実践、建設技術者教育で活躍。