住友建機株式会社SUMITOMO

1日を最大限に有効活用!
デキる人の「超・時間術」

労働力の不足や高齢化、慢性的な長時間労働など、建設業界には課題が山積している。
しかしそれらを「時間術」でクリアするのも1つの対策といえる。
今回は限られた時間を最大限に活用し、成果を最大化する方法を考えていく。

長時間労働と人手不足どうやって克服すべきか

出典:日本建設産業職員労働組合協議会
『2024時短アンケートの概要 生活実態・意識調査 調査時報No.313 ダイジェスト2025年4月』

2019年以降、働き方改革関連法が順次施行されている。建設業においても、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されるようになった。ワークライフバランスの観点から考えれば、働き手にとっては良いことかもしれない。しかし経営者にとっては悩ましいところだろう。建設業は以前から長時間労働の問題が指摘されてきた。さらに人手不足もあり、限られた時間と人材で、いかに効率良く業務を進めていくかが大きな課題となっている。

長時間労働と人手不足には深い関連性がある。人手が足りないがために、従業員1人にかかる負担が大きくなっているのだ。2人で取り組む作業を1人でこなすとなると、当然労働時間も長くなってしまう。

図❶の「残業した理由」を見ると、社内のマネジメントによって解決できそうなものがある一方で、個々のスキル向上でクリアできそうなものもある。しかしスキルの向上は人材育成にも関わる部分なので、簡単にはできそうにない。だが、ちょっとした工夫でスキルアップできるものもある。それが「時間術」だ。限られた時間で最大限の成果を出すためのスキルである。毎日の時間を上手に使い、業務を効率的にこなすことができれば、人手不足の悩みも解消されるかもしれない。

「ゆとり」があれば、イレギュラーに対応できる

締め切りに合わせて余裕を持って取り組む

時間を上手に使える人とそうでない人は、どの業界にもいるだろう。そこにはどんな“差”があるのか。『パッと見てわかる! 仕事がうまく回り出す時間術のきほん』(ナツメ社)の著者、平野友朗氏は、そこには「初動の『早い遅い』が関係しているのではないか」と指摘する。「例えば10月31日締め切りの業務があったとしましょう。早めに作業に取りかかる人と、締め切りの直前まで作業に着手しない人がいるのではないでしょうか。前者タイプの人は余裕が感じられますが、後者タイプは常に仕事に追われているような印象があります」

初動が早い人は時間的にもゆとりがあるため「新しい仕事やイレギュラー業務にも対応しやすく、チャンスをつかみやすい」と平野氏。反対に初動が遅い人は「目の前の仕事に精いっぱいになりがち」だという。
「ギリギリで着手していると、そのタイミングで別の至急案件が飛び込んで来てしまったときなど、不測の事態に対応できなくなってしまいます。そしてそれを処理しようとして、結果的に残業時間が増えることになるのです」

社内に、いつも追われるようにして仕事をしていたり、残業時間が多くなってしまっている従業員はいないだろうか。もしそんな人がいれば、仕事の初動のタイミングについて確認してみてはどうだろう。初動を早めるだけでも余裕が生まれ、効率化が図れるかもしれない。

仕事は「緊急度」が低いうちに着手すべし

後回しにするほど緊急度は「低」から「高」へ

図❷は「緊急度と重要度のマトリクス」と呼ばれるもので、『7つの習慣』(キングベアー出版)の著者、スティーブン・R・コヴィー氏が提唱している時間や仕事の管理法だ。

緊急度も重要度も高い仕事はAに、逆にそのどちらも高くない仕事はDに分類される。Aに分類される仕事から優先的に取り組む人は多いだろう。
「例えば、重要度は高いけれども急ぎではない仕事はBに分類されます。しかし初動が遅れてしまうと、その仕事はいつの間にかAに移動してしまい、余裕がない状態で進めなければならなくなってしまいます」

担当業務がBからAに移動する前にどれだけこなすことができるか、それがゆとりを持って仕事をできるかどうかのポイントといえそうだ。

では緊急度も重要度も高くないDの仕事はどうだろうか。ここには職場の懇親会や、整理整頓、ネットサーフィンなどが含まれる。しかしこれらも、後回しにしていると、いつの間にか緊急度や重要度があがり、AやCに移動してしまうものもあるようだ。そのような事態を防ぐためには、仕事の意味付けを自分なりに変えてみるのがいいと平野氏は言う。
「職場の懇親会も、ただ参加するだけでは時間の浪費になります。しかし『今日は○○さんと仲良くなって、いろいろとアドバイスをもらおう』という意味付けをすれば、その懇親会参加も無駄ではなくなるでしょう」

つまりDからBに移動するように、自ら重要度をあげる工夫を考えてみるということだ。ネットサーフィンも「仕事に役立つヒントを見つけよう」と考えることができれば、意味のある作業になるかもしれない。

またDの中には“そもそもやる必要がない”仕事が含まれている場合もある。業務を見直して、要不要を整理してみるのもいいだろう。

仕事の「仕組み」を変えることで効率化を図る

時間的ロスを最小限にする仕組みを考える

ではBやCに分類される仕事についてはどうだろうか。緊急度や重要度がAほどは高くないとはいえ、必要な仕事だ。例えば取引先との電話でのやり取りや、社内の打ち合わせ、人材育成のための研修や指導の時間などはB・Cに該当するものも多いだろう。
「取引先とのやり取りは、緊急度が低い場合は電話ではなくメールですませると時間のゆとりが生まれやすいでしょう」

会議や打ち合わせも、社内で専用のチャットなどを活用すれば、全員が同じ時間に同じ場所に集まらなくてもすませることができる。
「仕組みを変えることによって、時間的な余裕が生まれ、その分緊急度が高いAの仕事に集中することができます」

またB・Cの仕事については、比較的手の空いている人に任せるという方法もある。新入社員に研修の意味で取り組んでもらうのも、1つのやり方といえるだろう。

「質」を最大限にするためにも初動は大切

要求されている質を把握し合格ラインを事前に決める

資料:平野友朗氏『パッと見てわかる! 仕事がうまく回り出す 時間術のきほん』内の図表を基に作成

期限を守ることは仕事である以上必須だが、同時にその「質」も大切だ。仕事の質は、必ずしも費やした時間に比例して良くなるとは限らない。質を追求するあまり期限を守れない、あるいは期限が気になって質が低下することがあってはならない。平野氏は「期限と質のバランスが重要」だと話す。
「質ばかり追求するとキリがなくなることもあります。まずは要求されている質を把握し、合格ラインを決めてから期限に間に合うように作業を始めるのです」

職人気質の人や神経質な人は「100点満点を目指しがち」だという。
「締め切りまで時間があると『もう一度チェックしよう』と、ギリギリまで何度も確認する人がいますが、考えようによっては費やした時間とリターンが見合わないということです。これはある意味で“過剰品質”ともいえるもので、時間の浪費でもあります」

未経験の仕事でなければ、求められている質、つまり合格ラインはわかるはずだ。「それを少しでも超えていれば良しとする合理的な思考も必要」と平野氏は話す。上司は部下の仕事の質には寛容になることも、ときには必要なのだろう。100点満点を求め過ぎてしまうと、萎縮した部下が過剰品質傾向になり、時間を浪費してしまうかもしれない。

建設業は人命に関わる部分も大きいため、合格ラインはかなり高いといえる。納品前の厳しいチェックが必要なこともある。そのためにも焦って仕事をしなくてすむよう、初動も早めにしたほうが良さそうだ。

業務の「密度」を高める工夫を

待ち時間も有効活用して作業の密度を高める

平野氏は仕事の「密度」をどう高めるかについても、常に考えておくのが良いと話す。

「例えば8時に仕事を始めて、17時には終えると決めたとしましょう。まずはその時間内にやらなければならない作業を把握します。やるべきことが多くて時間が足りないようであれば、一部の作業時間を圧縮する。逆にゆとりがあるならば、明日予定している仕事を前倒しして作業をするなど、決められた時間内の仕事の密度を高めていくのです」

建設業の場合、天候や交通事情などに影響されて“待ち時間"が増えてしまうこともある。
「そのようなときでも、例えば現場内の片付けや掃除をする、報告書をまとめる、部下とのコミュニケーションや、新人がいる場合にはその指導にあてるなど、他の時間にやるべきことを前倒しして処理するようにすれば、あとの工程にもゆとりができるでしょう」

休憩時間を長めに取ることでも良いという。夏場は熱中症のリスクを回避するためにも、十分な休憩が必要だ。加えて、高所作業など危険がともなう現場では、作業員のストレスも大きいため、リラックスさせる時間を取るのも良い。密度を高めるとは、限られた時間をいかに有効に使っていくかということでもあるのだ。

デジタルツールの活用で生産性向上

デジタルツール活用で無駄な時間の削減を

最近は業務に必要なデジタルツールを導入して、生産性を高めようとしている建設事業者も多い。時間を有効活用して効率化を図るツールもあり、導入している企業もあるだろう。平野氏は「Googleカレンダーなどの、時間管理ウェブアプリケーションの活用がおすすめ」だと話す。メンバー全員でお互いのスケジュールを共有できるのがメリットだという。
「全員の予定が把握できるので、例えば『○日の14時から1時間はみんな手が空いているから次の作業の打ち合わせをこの時間ですませておこう』といったことが可能になります」

そのようなアプリケーションがない時代には、メンバー一人ひとりに予定を確認し、スケジュールが確定したら今度はそれを口頭で伝えるという手間が必要だった。しかしその時間も節約できるというわけだ。
「上司などの管理者は、部下のスケジュールをすぐに確認できるため、『来週のAさんはちょっと作業が詰まっているな……。Bさんは比較的ゆとりがあるから応援に入ってもらおう』といったこともできるでしょう」

建設業は現場の掛け持ちもある。その場合は現場間の移動時間や交通経路も把握して、時間管理ツールに入力しておくのが良い。
「現場間の移動の間に昼食や休憩の時間を取ろう、電話連絡をすませておこう、などということも考えやすくなるでしょう」
移動時間の“密度”も高くなるというわけだ。

「仕事が早い=高評価」と思える職場に

作業が早い人はきちんと評価してあげる

作業の内容をリスト化するのも良いという。とくにやり終えた作業を整理した“やったことリスト”を作るのがおすすめだと平野氏。
「作業を終えるたびに、やったことリストに書き足していくのです。すると『今日はこれだけの仕事ができたんだ』という充実感が得られるでしょう。自分を褒めることにもなるのです」

やるべき作業をまとめた“やることリスト”を作って「今日はこれだけの作業を必ず終わらせよう」と目標を明確にして作業に取りかかるのも良い。ただしその場合には注意すべきことがある。
「時間と作業内容が決められていると『この時間内に終わればいい』と考えてしまって、あえて密度を低くしてしまう人がいます。例えば荷物を運ぶ際に、一度に3個運べるものを、わざと1個ずつ運んだり、わざと遠回りして運ぼうとしたりするようなケースです」

このような仕事の進め方は時間を無駄にしているだけでなく、その人にとっても良くない。「仕事ができる人だと思われて、自分に負担が集中してしまうのではないか」という心理が働いて“仕事ができないフリ”をしている可能性がある。
「3時間で終わらせる予定の作業を2時間で終えることができれば、残りの1時間で他の作業を手伝ったり、新しい仕事に取り組んでみることもできるのです。チーム全体の効率があがるだけでなく、その人のスキルアップにもなるでしょう」

仕事が早い人は、上司や先輩がそれをきちんと評価してあげることが大切だ。「早く終わらせたら損をする」などと思わせてはいけない。

休むことも仕事の大事な一部分

時間は個々人でマネジメントするべき部分が大きいが、場合によっては上司などの管理者が介入したほうが良いこともある。1つは新入社員などに仕事を任せるときだ。
「『この作業は1時間で終わらせるように』などと、具体的な作業時間を伝えるのです」

これには、最適な作業時間を伝えられる以外の効果もある。経験が少ない新入社員は、時間オーバーになったり、ギリギリになってしまうこともあるかもしれない。しかし次第に50分で完了、その次は40分で完了、と作業時間が目に見えて縮まればその人も成長を実感できる。

また休むことも大切だ。建設現場などでは、休憩を取らずに作業に没頭してしまう人もいるが「1時間作業をしたら、必ず10分の休憩を取ると決めて、それを守らせることも必要です」と平野氏は言う。

例えば、休日出勤をした場合は必ず代休を取らせる、長時間の残業が発生してしまったら、その翌日は早めに退勤させるなど、上司側の配慮も必要ということだろう。

上手な時間の使い方はチャンス拡大になる

高密度な時間使いでキャリアアップのチャンスも

密度を高めて、仕事を早く終わらせることができれば、いろいろな意味での“チャンス”が広がる。
「残業しなくてすめば、終業後は自分の趣味や家族と過ごす時間にあてることもできます」
時間の自由度が高まるのだ。

同時に職場内での評価も高まる。
「余った時間で、建設関連の資格取得の勉強もできるはず」と平野氏は話す。時間の密度を高めれば、昇給や昇進のチャンスも見えてくるというわけだ。

長時間労働はもはや美徳とはいえない。むしろマイナス評価になってしまうこともある。「仕事が早い=キャリアアップのチャンス」ということとあわせて、経営者はこれらのことを現場の部下に伝え続けていく必要がありそうだ。

ー C O L U M N ー
仕事に「ゲーム感覚」を取り入れてみよう


仕事をより楽しく、そして効率的に進める1つの方法として、ゲーム的な感覚を取り入れてみるのも良いと平野氏は話す。「作業ごとにその所要時間を計ります。そして『もっと早く終えるにはどうすれば良いのか』を考えるのです」。つまり“ゴールまでの最短ルート”を見つける意識で取り組む方法だ。ただ作業をこなすだけでなく、ちょっとした楽しさも生まれるかもしれない。そして「次はこうしたほうがいい、ああしたほうがいいと考えていくうちに、意外なところに無駄な工程があることに気付くこともある」という。

そんな無駄な作業を省くことで、作業時間の短縮化ができる。また、教えられた通りに作業を進める人もいるが、教えられたやり方が必ずしも効率的とは限らない。「この工程は不要なんじゃないかな?」「もっとこうしたほうがいいのに」と思うことがあれば、それを上司や先輩に提案しやすい風土をつくることも必要だ。そして部下からそんな提案があったときには、上司もそれに耳を傾ける余裕を持っておきたい。


監修=平野友朗 文=松本壮平 イラスト=丸山哲弘

お話を伺った方

平野友朗(ひらの・ともあき)
一般社団法人日本ビジネスメール協会 代表理事、株式会社アイ・コミュニケーション 代表取締役。
時間管理や業務効率化の専門家。メール対応の見直しによるタイムマネジメントに強みを持ち、年間150 回超の講演・研修を実施。メール活用や働き方改善を通じて、企業や官公庁などの生産性向上を支援している。著書に『パッと見てわかる! 仕事がうまく回り出す 時間術のきほん』(ナツメ社)など。