住友建機株式会社SUMITOMO

曖昧な指示や合図は危険。
徹底した「復唱」でミスを排除!

Q

先日工事現場で、当社の従業員がダンプカーをバックで誘導しているときに、乗用車と接触事故を起こしてしまいました。このところ、指示や合図の曖昧さからちょっとした事故が頻発しています。指示や合図をどのように改善したら、ミスを減らすことができるのか教えてください。

A

工事現場で材料や道具を車両でひいてしまったり、ダンプカーを誘導中に何かにぶつけてしまったりする事故は珍しくありません。実は、こうしたミスや事故の半数以上が、作業者間のコミュニケーション不足が原因で引き起こされています。

伝わったと思っていることが伝わっていない。「自分の説明が不十分だった」と反省する人もいるでしょうし、「どうしてそんなこともわからないんだ!」と怒りを感じる人もいるかもしれません。

例えば、「明日、朝一番で資材を現場に届けてくれ」と指示したのに別の現場に届いた。安全通路とフェンスの設置場所を口頭で伝えたら、別の場所に設置されてしまった。こうした事例は、相手の「わかった」という返事だけで安心し、指示内容を復唱して確認する作業を怠ったために起こる、典型的なコミュニケーションミスです。

組織的なチームでは、指示に対する「復唱」という行動をとるように訓練されています。復唱することで言い間違いや聞き間違いを防ぐだけではなく、指示内容の不明点や疑問点を確認することができるからです。例えば、「10日木曜日に集合」という指示が誤っていたとしても、「10日は金曜日ですが……?」とその場で指摘することで、ミスを事前に防ぐことができます。人間には、「大丈夫だろう」「相手はわかっているはずだ」と安易に考えてしまう“正常性バイアス"という心理が働くものです。人間の心には、こうした特性があるということを知っておくのも大切なことでしょう。

一方、「簡単な指示までいちいち復唱するのは面倒だ」「100回のうち1回ぐらい指示のミスがあっても、それはわずか1%程度のことだ」と思う人もいるかもしれません。

しかし、1%といえども、1日3回指示を出せば1カ月で1回、100人が一斉に指示を出せば1回はミスが起こる計算になります。その1%が重大事故につながる可能性を認識し、慢心は危険だと心得るべきです。だからこそ、こうしたミスや事故を防ぐには、指示の出し方や復唱などを教育訓練として、社内に定着させることが重要なのです。

加えて、誘導や合図の方法を社内で統一し、訓練することも必要でしょう。手による合図は曖昧になりがちなので、アメリカでは「ストップ」や「スロー(ゆっくりと)」などの看板を提示して明確に伝えます。旗を使う場合も、何も書いていない旗を振るのではなく、「止まれ」と書かれた旗を使う方が正確でしょう。さらに、声かけ練習などでダブルチェックする風土をつくっていくことが事故を防ぐことにつながるはずです。

現場の安全は、一人ひとりの意識と行動の積み重ねによって守られます。復唱や明確な合図を徹底し、小さなミスも見逃さないという強い意識を持つことが、重大な事故を防ぐ第一歩となるでしょう。


構成=吉村克己 イラスト=丸山哲弘

解説

中村秀樹(なかむら・ひでき)

ワンダーベル合同会社 建設コンサルティング&教育
名古屋工業大学土木工学科卒業。大手ゼネコンにて高速道路、新幹線の橋梁工事などに従事。
建設マネジメントの実践、建設技術者教育で活躍。