住友建機株式会社SUMITOMO

住友建機のICT施工

ICT施工情報誌「ICT Magazine」

ICT建機は働き方改革時代の 「救世主」

建設業界は今まさに大きく変わろうとしている。
作業効率の向上や、人手不足の解消といった、業界を取り巻くさまざまな問題にアプローチする助っ人「ICT建機」の今とこれからを追う!

注目を一身に集めるICT建機の実力

近年、耳にすることが多くなった『ICT(情報通信技術)建機』。「作業効率が上がる」、「作業人員を減らせる」など、魅力的なキャッチフレーズとともに語られることが多いため、興味を抱いている建設業者も少なくないだろう。ただ、実際のところ、どれほど効果があるのか明確なデータは少ない。そこで、住友建機がある実験を行った。10m×10m=100㎡の平面の中央部7m×8.5mの範囲を、深さ1.5mまで掘削して法面を整形。さらに、掘削面に幅2m、深さ0.3mの溝を切るという作業を従来施工とICT建機で実施し、施工時間を比べたのだ。もちろん、オペレータは同一人物なので、力量による差は出ない。

その結果は、驚くべきものだった。直接施工時間だけで約43%の短縮を可能にしたのだ。加えて、ICT建機であれば丁張は必要なく検測の手間も半減。さらに、オペレータ一人で作業できるため、従来施工で必要になる2人の手元も不要。人員も約67%減らせた計算になる。 もちろん、この数値は一例であって、すべての現場にあてはまるわけではない。それでも、ICT建機の実力は十分に伝わる結果だった。

では、IT化が遅れていた建設業界において、昨今ICT建機の注目度が高まっている理由は何か。その背景には、国土交通省が推進する『i-Construction』が大きく影響している。

生産性向上の特効薬『i-Construction』

建設業界は深刻な人手不足に悩まされている。技能労働者340万人のうち、今後10年間で離職する50歳以上の労働者が110万人にものぼるという試算が出ている。
しかも、「きつい、危険、汚い」仕事というイメージから建設業界で働こうと考える若者は少ない。今後の建設業界を支える29歳以下の労働者は、全体のわずか10%以下にすぎないのだ。

この状況を打開するには、「働き手を増やす」ことと「労働者1人あたりの生産性を向上させる」しかない。こうした背景から国土交通省が2016年度より導入した新たな基準が、『i-Construction』である。

これは、「ICT技術の全面的活用」、「規格の標準化」、「施工時期の平準化」という3本柱で構成されており、中でも大きな効果を生むだろうと期待されているのが、「ICT技術の全面的活用」だ。

従来の方法で工事を行う場合、まずは測量して設計図を作成し、施工土量を算出して施工計画を立てていく。施工現場では設計図に合わせて丁張を設置し、施工しては検測することを繰り返す必要がある。施工が完了すれば、膨大な書類を準備して検査を受けなければならない。

この工程を3次元(3D)データの活用によって刷新しようというのが、「ICT技術の全面的活用」だ。ドローンやレーザースキャナにより測量データを3D生成し、データと設計図面との差分から切り土や盛り土量といった施工量をPCソフト上で算出。施工においては、3D設計データをICT建機に取り込むことで、作業の半自動化が可能になり、工事完了後、再度3D測量データを作成、活用すると検査時の出来形書類も不要となる。

これらの変化による利点は、大きく3つ挙げることができる。

1つ目は、「労働力の削減」だ。例えば、数千地点を測量するのにおよそ1週間かかっていたものをドローンなら数百万地点の測量を15分ほどで完了できる。建機で作業する際に必要だった丁張や検測のための作業員は不要になり、出来形の書類を作成するための人員も減らせる。

2つ目は、「生産性の向上」。実験で証明したように、ICT建機によって作業時間は大幅に短縮できる。また、建機の操縦は熟練の技を必要とする難しい仕事だが、自動制御が可能なICT建機なら経験の浅いオペレータでも一定レベル以上の施工品質を保てる。つまり、時間短縮によって請け負える現場数を増やせる上、現場ごとの人員配置の幅も広がるため施工品質も維持しやすくなるわけだ。

そして3つ目が、「安全性の向上」である。丁張や検測のための作業員がいらないということは、建機周辺に人を配置する必要がなく、事故の可能性を軽減できることになる。

こういった労働環境の改善は、「きつい、危険、汚い」イメージを「給与が高い、休暇がとれる、希望が持てる」ものへ変えることにもつながり、新たな人材の流入も期待できることになるのだ。

人作業を実現する「2D」「3D」の新方程式

2Dシステムの特徴

2Dsystem
    メリット   デメリット
マシンガイダンス
2DMG
車に例えると
カーナビ
  • 安価に導入可能
  • 操作が簡単
  • 3D設計不要のため導入が容易
  • オペレータの技量に左右されやすい
  • 丁張が必要
  • 建機の足が動くたびに0セットが必要(i-Construction 非対応)
マシンコントロール
2DMC
車に例えると
半自動運転
  • 操作が簡単
  • 3D設計不要のため導入が容易
  • MCにより綺麗で早く作業できる
  • 制御システムが加わる分2DMGより高価
  • 丁張が必要
  • 建機の足が動くたびに0セットが必要(i-Construction 非対応)

3Dシステムの特徴

3Dsystem
    メリット   デメリット
マシンガイダンス
3DMG
車に例えると
カーナビ
  • 機械にデータをインポートすれば操作はスマホ感覚で比較的容易
  • 3Dデータにより任意の場所で施工可能(i-Construction 対応)
  • 測位関係の機器が必要なため、2Dよりも高価
  • 3D設計が必須のため事前準備が必要
  • 画面を見ながらの施工のため、オペレータの技量に左右される
マシンコントロール
3DMC
車に例えると
半自動運転
  • 機械にデータをインポートすれば操作はスマホ感覚で比較的容易
  • 3Dデータにより任意の場所で施工可能(i-Construction 対応)
  • MCにより綺麗で早く作業できる
  • 制御システムが加わる分3DMGより高価
  • 3D設計が必須のため事前準備が必要

では、ICT建機はなぜ作業効率化が図れるのだろうか。ここではICT建機のメカニズムや種類について、もう少し詳しく解説していきたい。

ICT建機は、2D・3DとMG(マシンガイダンス)・MC(マシンコントロール)の掛け合わせで2DMG・2DMC、3DMG・3DMCの4つに分類できる。2Dとは、バケットの刃先を基準にした相対的システムで、刃先を基準に勾配・高さ・深さを設定して使うため、3D設計データは不要だが、丁張が必要で移動するたびに基準点を0セットする必要がある。3Dの方は、衛星データなどの位置情報やセンサーによって刃先の絶対的位置を把握できるため、3D測量データ・3D設計データを建機にインポートすることで任意の場所での施工が可能になる。つまり、丁張がいらないわけだ。

一方、MG・MCでは、できることが違う。MGはモニターに施工対象の軌跡を表示して操作をサポートするナビゲーションシステム。対して、MCは油圧制御システムを加えることで、施工箇所の3D設計データに従って機械をリアルタイムで自動制御する。自動車で例えると、MGはカーナビでMCは半自動運転だ。
このような説明を聞くと、3DMCのマシンを揃えるのが、ICT建機導入のメリットを最大限享受する最善の道だと思うかもしれない。しかし、3DMCはセンサーや油圧制御システムなどさまざまな機構が必要な分、導入コストが割高になるだけでなく、3D設計データを作成する手間もかかる。現場の規模や作業内容によっては、2DMGで十分足りることも少なくないので、大切なのは適材適所で4種のICT建機を使い分けることだ。留意すべきは、受注内容や規模の変化に柔軟に対応できるよう、2Dから3Dへ、MGからMCへ容易にアップグレードできるかどうかという点だろう。

いずれにしても、ICT施工の推進を国が後押しする流れが加速していくことは間違いない。国交省直轄工事におけるICT活用工事は2016年度から毎年、実施件数・実施率共に増加。都道府県や政令市における実施件数も伸びている。国交省が示したロードマップでは、今後土工工事がICT施工対象として、全面展開されていく指針が示されている。また、『i-Construction』対応工種も順次拡大予定だ。

また、採算が合わないことが問題視されていた小規模工事への対応にも着手。施工規模に関係なく一律%に設定されていた積算基準を改め、ICT建機の稼働率と施工土量に基づいて事後清算できるように変更するとともに、施工土量別の工事区分に5000㎥未満と5000㎥以上1万㎥未満の新区分を追加した。

このように建設工事の有り様が変わろうとしている今、ICT建機をはじめとした情報化施工から目をそらし続けることは難しい。業界の救世主、ICT建機。今後もその実力に注目していくことが必要になってくるだろう。