住友建機株式会社SUMITOMO

住友建機のICT施工

ICT施工情報誌「ICT Magazine」

大解剖! 建設DXの未来

AIや5Gといったデジタル技術の向上にともない、ICT建機の性能も高まってきている。
これからの建設業界は、どのように進化していき、経営者として今やるべきことは何か。その全容に迫る!

デジタル化への取り組みは、“待ったなし”の瀬戸際

「建設業界は、3つの問題に直面しています。この危機を乗り越えるには、中小・小規模建設会社がICT活用に取り組む必要があります」

こう語るのは、立命館大学理工学部環境都市工学科で、情報化施工や環境負荷低減を研究する建山和由教授だ。
「1つ目の問題が、人手不足です。多くの建設会社がすでに実感していると思いますが、生産年齢人口が減少していく中、一層深刻な問題になっていきます」

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2020年からの30年間で、15歳から65歳の生産年齢人口が約30%も減ってしまう(図1参照)。この限られた人手、つまり労働力を全産業で取り合うことになっていくわけだ。

ところが、建設業は「3K=きつい・きたない・危険」というネガティブなイメージもあって(図2参照)、現時点ですら若手の採用に苦しんでいる。この現状を変え、若い人にとっても魅力のある業界にならなければ、次世代を担う人材を確保することは厳しさを増すばかりだろう。
また、生産年齢人口が減るということは、税収が減少するとともに、インフラの利用者も減っていくことになる。そうなれば、インフラの投資予算が縮小されることも覚悟しておかなければならない。

その一方で、「災害対策工事は増加する」と建山教授は指摘する。
「2019年10月の台風19号では、日本全国で71河川、142カ所が破堤しました。近年は、大型台風や線状降水帯が引き起こす、集中的な大雨による洪水被害が増えており、早急な対策の強化が求められています。地震に備えて耐震補強工事などを進めていく必要もあるでしょう。」

“建設従事者、熟練技術者不足の深刻化”“インフラの新規投資予算の縮小”“高度な技術が求められる災害対策工事の増加”──この三重苦を乗り越えるには、生産性向上と、熟練技術者の技能伝承が必要不可欠だ。

しかし、若手が確保できないまま、熟練技術者が高齢化によって次々と引退している現状では、後進の育成などままならない。生産性についても、製造業が1996年から20年間で2倍も向上しているのに対し、建設業は維持どころか下がってしまっている。

この現状を変革するための手段がICTであり、中小建設会社がその活用へと積極的に取り組むことで、業界全体を動かしていかなければならない。ただし、これは悲観することではない。
「2000年代まで、建設業は仕事を分け合いながら何とかやってこられたため、生産性を上げる必要がありませんでした。それはすなわち、その気になれば、改善できる伸びしろが大きく残されているということであり、状況が大きく変わる今こそ、本気になるべきです」

会社、ひいては業界全体として成長していくために今、何ができるのか。一人ひとりが考え、確かな未来図を描いていくことが肝要だ。

小さな成功体験が、鍵を握る!

国も「中小建設会社・地方公共団体へICT施工の裾野を拡大していくことが、建設業界の変革に欠かせない」と判断し、さまざまな施策で後押ししている。

例えば、ICT施工においては5000㎥の積算基準を設定し、小規模工事にも対応するように変更。現場条件によって標準よりも規格の小さい施工機械を用いる場合は、標準積算によらず見積もりを活用できるようになった。簡易型ICT活用工事も2020年から導入。従来は、(1)3次元起工測量、(2)3次元設計データ作成、(3)ICT建設機械による施工、(4)3次元出来形管理等の施工管理、(5)3次元データ納品のすべてのプロセスで、3次元データの活用が必須だったが、一部のプロセスだけでの導入でも良いことに変わってきている。

また、先進的にICTを導入し、活用に成功している建設会社が、これからICTを検討する各企業の疑問点や技術選定の課題などに助言するICTアドバイザー制度の設置や、そうしたノウハウを共有する機会の提供など、制度面だけでなく、ソフト面におけるサポートにも力を入れているところだ。

ただし、このような風潮に流され、「何となく便利そう」など、ICTの導入自体を目的としてしまうと、つまずく可能性が高いと建山教授は注意を促す。
「ICTによる測量や施工、BIM/CIMなどをはじめるには、相応の投資が必要になるだけでなく、人材の育成も欠かせません。そのため、効果が出るまでにはそれなりに時間がかかるものです。ところが、便利そうだから使ってみるといった意識だと、効果を実感する前に断念してしまうケースが非常に多いのです。だから、ICTに取り組むときは、何のために導入するのか、“目標”を明確にしておくことがとても大切になります」

経験の浅いオペレーターでも水準以上の品質で仕上げられるようにしたい、施工期間を2割短縮したい、現場の安全性を向上させたい──まずは自社が抱えている課題を明確にする。そして、その課題を解決する手段としてICTを活用するという意識付けができれば、投資回収も長期的に考えられるし、新技術を使いこなすためのスキル習得にも、腰を据えて取り組むことができるはずだ。

手ごろな投資で効果を実感しながら、徐々にICTの領域を拡大していくことも一つの手だと、建山教授は続ける。
「いきなり大きな目標を目指せといわれても、なかなか成功を実感できなければモチベーションは下がっていくものです。そこで、小さくてもいいので、短いスパンで成功体験を積み重ねていくのが、継続するコツだといえます。それに、簡単なデジタル機器から慣れていくことで、ICTに対する抵抗感を薄れさせていくことができるかもしれません」

小規模現場であれば、スマートフォンで3次元測量ができる技術やその測量データから3次元データを作成するサービスがすでに実用化されている。手ブレを補正してくれるジンバルカメラや、騒音のある中でも会話できる骨伝導マイクなどのデジタル機器を使えば、足を運ばなくても現場の状況を確認できる遠隔臨場も可能。数時間かかる移動時間を削減して、より価値あることに使うだけでも生産性は向上するはずだ(図3参照)。

ICT施工であれば、大きな効果を実感できる

変革の本丸である業務効率化、人員削減、工期短縮、安全性向上といった大きな目標達成となると、ICT施工への取り組みが欠かせない。

その効果の大きさを示す事例として、京都の中小建設会社がICT施工によって行った堤防強化工事を紹介したい。鋼矢板によって遮水し、基礎コンクリート設置後、遮水シートとブロックマットによって法面を強化。その上に覆土を整形する工事で、法面覆土の締固めと整形を3DMGショベルによって行った。

結果は下図5にあるとおり、従来施工に比べて、ICT施工ではオペレーター数がおよそ半減。職員数と普通作業員数に至っては10分の1以下にまで減らすことができたのである。

ただ、この事例では、起工測量や工事測量、出来形測量は測量会社に、3DMG施工のためのデータ作成はレンタル会社に外注しているため、「将来的にはインハウスの技術にまで高めていくことが大切」だと建山教授は補足する。
「ICTを使いこなせるようになるまでは、外注を利用することにも意味はあります。しかし、そのままではICT施工に関する知見が社内に蓄積できず、外注頼りから脱却できません。知識やノウハウは、繰り返し使うことで身につく部分が大きいからです」

いつまでも外注に頼っていると、その費用が利益を圧迫するというデメリットもある。そのため、最初は多少無理をしてでも、ICT施工を習得する人材を1人置いて、経験を積ませるべきだという。
「地方整備局の技術事務所では、デジタルツールやBIM/CIMデータを活用した設計、施工管理に対応できる人材育成を目的として、DX推進センターを設置。また、ICT施工関連の機器やソフトウェアを開発しているメーカーによるセミナーもあります。こういったサポートを積極的に活用しながら、技術のインハウス化を進めるべきです」

住友建機では、ICT建機を購入いただいたお客様を対象に、最初の1、2現場は技術者を派遣するサービスを提供している。ローカライゼーションをはじめとしたセットアップを一緒に行うためだ。
「結局、投資や人材育成が必要なのかと面倒臭く思うかもしれません。しかし、建設業界を取り巻く状況が厳しさを増していく中、今までと同じでは早晩立ちいかなくなります。そして、他と違うことが企業の価値になります。その一つが、ICT活用によって3Kから脱却し、“楽して儲ける”新しい建設業のあり方をつくることだと考えます」

激動の時代を乗り切るためには、新たな道をつくっていかなければならない。

【話を伺った方】

建山和由氏 立命館大学理工学部 環境都市工学科 教授
1957年生まれ。長きにわたり、建設施工の機械化や情報化施工を研究し、i-Constructionの礎を築いた第一人者。国土交通省において、情報化施工推進会議委員長、i-Construction委員を務める。また、公益社団法人土木学会では、建設用ロボット委員会委員長などの要職を歴任。