住友建機株式会社SUMITOMO
業界で話題となった「FVM」の後継、「FVM2」の開発秘話

視覚の次は、
聴覚への
お知らせ

後方安全確認支援装置「FVM(フィールド ビュー モニター)」を使うお客様からのさらなる期待に応えるべく、その技術力を生かし、後継装置「FVM2」を開発した。
FVM2 は、周囲の安全確認をサポートするシステム。多様な現場条件での安全作業に配慮して、2段階でのお知らせを実現。人が近づくと距離に応じて黄色枠や赤色枠でモニター表示した上、音で知らせる。

FVMの開発にも携わった技術本部の加藤英彦は、FVM2に託した思いをこう語る。
「カメラ画像のみによる“人の認識機能を搭載した、お知らせ機能付き周囲監視装置” を標準装備にしたのも、業界初です。
標準装備したことで、より多くのお客様に使っていただけるでしょうし、事故に対する意識を高めることにつながるかもしれません。その結果、お客様の利益に少しでも貢献できればと思っています」

FVM2 のモニター。モニター画面のように、一定範囲内の人の形を認識して、まずは黄色枠表示と「ピッ」という音で、さらに接近した場合には赤色枠表示と「ピッ、ピッ、ピッ」という音で、オペレーターに注意を促していく。

では、開発ヒストリーを振り返っていこう。
FVMは、機械後方から左右にかけて270度もの広い範囲を1つのモニターで確認できることで注目を集めた。しかし、開発プロジェクトのメンバーは慢心せず、その目は後継機の開発へと向けられていた。
「FVMの視認性の高さに驚いたお客様が、次に口にする言葉が『人がいるとき音は鳴らないの?』でした。
その期待に応えるべく、周囲に人がいることを音で知らせる機能を搭載したFVM2の開発に着手しました」
こう語る清田芳永は、住友重機械工業株式会社の情報通信技術グループ主任研究員であり、人検知機能の要素技術開発を担った中心メンバーの一人である。
清田は続けて、「お客様の安全のために、標準装備できるコストでお届けしたい。そのため、FVM2でも、FVMで使用している“3つのカメラだけを使った画像認識” の方法を採用しました」と話す。
これは、非常に高度な技術が求められる選択であり、予想通り完成までには数多くの壁がメンバーたちの前に立ちはだかることになった。

コンピュータに
人を認証させる
までの苦労

カメラ画像の中から人だけを抽出するのは、コンピュータにとって非常に難易度の高い処理になる。
そもそも、コンピュータは人を画像としてしか認識していない。画面に写っている画像を人として認識してお知らせ音を鳴らすには、コンピュータが画面内の人だけを見分けられなければ始まらない。
開発当初は、人のパターンを収集することに多くの時間を費やした。メンバーがさまざまな作業服やヘルメットをかぶり、考えられる限りの動作を録画した。
四季ごとの現場の変化を収集するため、千葉県の北東部にある試験場で、ひたすら土や山、スクラップなどを撮影したりもしたという。
「そうして集めたパターン情報をコンピュータに学習させ、画像の中から人らしきものを抽出・識別できるようになるまでに3年ほどかかりました。 しかし、その精度は人っぽい形の影や草木ですら人間だと判断してしまうほど低く、とても実用化できるレベルではありませんでした」(清田)
実用化レベルにまで精度を高めるには、性能を大きく向上させながら処理に関わる計算量を削減するという、相反する課題を解決しなければならなかった。
「人の存在をリアルタイムで警告するために許される抽出・識別時間は、わずかコンマ1秒。この間に膨大な計算処理をさせるなど、本当に可能なのか……。自問自答しながら、できることを一つずつ着実に実行していくしかない。そんな日々でした」(清田)

グループの
協働が生んだ
FVM2

一方、カメラやモニターといったハードの性能向上も同時に図っていかねばならなかった。
FVMに使用しているカメラには、ダイナミックレンジがそれほど広くないという欠点があったからだ。写真を撮ると、明るすぎるところは色が飛んで真っ白に写り、影の部分が真っ黒になってしまう。この真っ白になる寸前から真っ黒になる寸前までの、階調を失わずに写せる明暗差の幅のことをダイナミックレンジという。
「FVM2では、一つのカメラ画像を使って人の有無を認識するため、ダイナミックレンジが狭いと、それだけ検知能力が低下します。
画像が真っ黒では人を抽出するなど不可能ですから。そのため、ダイナミックレンジが広い、ワイドダイナミックレンジカメラの量産体制を整える必要がありました」(加藤)
開発が進むほど新たな課題が次々と出てくる状況だった。しかし、完成させることができたのは、「技術研究所と技術部が開発当初から協働したから」だと清田は強調する。
FVM2の開発を通し、現場で求められる仕様や起こり得るトラブルを把握・解決しながら開発するノウハウを構築できた。住友建機の知恵を総結集させて生まれたのが、FVM2 だ。

※掲載内容は情報誌発行当時(2017年12月)の情報です。