住友建機株式会社SUMITOMO

【vol.150】
働き方適応術 徹底解説
2024年「労働時間規制」リミットまであと3年……
今までの考え方は通用しない!

人手不足、長時間労働、低収入などは、土木建築業界が長年抱えている問題だ。
他方で国は働き方改革をさらに加速させるため、「建設業働き方改革加速化プログラム」を推進している。
時代の流れに乗り遅れないためには何をすべきなのか。専門家に解説してもらった。

監修:株式会社みどり合同経営中小企業診断士
澤田兼一郎、犬飼あゆみ
イラスト: 佐藤竹右衛門
文: 山下久猛

中小企業が直面している課題

 2024年4月1日から、労働基準法の改正により、労働時間の上限が規制される。原則月45時間・年360時間以内。違反すると、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがある。いわゆる「2024年問題」だ。
 加えて給与面でも建設業者全体では上昇傾向にはあるものの、生産労働者については、製造業と比べて低い水準である。人手不足が深刻化したら、日本各地で経営を継続できない建設会社が続出する。そうなれば日本を支えるインフラが危機的状況に陥ってしまう。

 それを防ぐために、国土交通省が、建設業における週休2日の確保をはじめとした働き方改革をさらに加速させるため、「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定した。「①長時間労働の是正を含めた労働環境の改善」「②給与・社会保険」「③生産性向上」の3分野において新たな施策を推進していく。
 では、この3つの分野で具体的にどのような対策を取ればいいのか。数多くの建設会社に経営コンサルティングを行ってきたみどり合同経営の中小企業診断士、澤田兼一郎さんと犬飼あゆみさんに解説いただく。

カギ① 労働環境の改善

長時間労働を改善するヒントに迫る

 建設業界が抱える雇用問題については当然、経営者自身も危機感を抱いているだろう。特に難しいのは「長時間労働の是正」「完全週休2日制」の実現だ。澤田さんは以下のように話す。
「建設業界全体の工事のうち、約半分を占めるのが公共工事です。その受注条件の一つに求められるのが完全週休2日制。そのため改革に焦っている中小企業も多いのです」
 ではまずどのようなことから取り組むべきなのだろうか。
「従業員によるサービス残業や休日出勤が常態化している中小企業も少なくありません。しかし、そもそも実態を把握せずして解決策は出せません。まずは全従業員の本当の労働時間を算出しましょう」(犬飼さん)

工期短縮のためには段取りが要

 長時間労働を改善できれば、入社後の定着率も高くなり、応募者数が増えることも予想される。では就業時間を減らす最大のポイントはなんだろうか。
「どのような順番で何をするかという事前計画と工程管理が、常にきっちりできていることが大切なんです。実現するためには計画・管理できる人材をしっかり育てる必要があります」(澤田さん)
 工程を短くするためのフローを見出したネットワーク工程表をうまく活用したある企業は、従来6日かかっていた工事を5日で完了させることに成功したという。熟練者と初心者の工事日数の差も縮まった。
 また、人の配置を工夫すれば、結果的に労働時間を短縮できる。
「複数の案件が同時並行しており、待ち時間が発生する場合は、例えば作業員を午前はAの現場、午後はBの現場に移動させるなど、差配することによって、作業時間の削減に成功している会社もあります」(澤田さん)
さらに工期を短縮できればその分、他の仕事を受注でき、利益アップにもなる。

外国人実習生を確保する手立て

 現在はコロナ禍で新しく外国人が入ってくるのが難しい状況だ。そのため、今社内にいる外国人実習生にいかに長く残ってもらうかがカギとなる。
「雇用体制を整えている会社は若い外国人実習生をしっかり確保している傾向です。試験に合格して特定技能資格を取得すれば在留年数を延ばせるので、そのために手厚くサポートしている会社もあります。加えて、本人が会社に長く残りたいと思うことが大事です。そのために、例えばプライベートの時間を十分に確保したり、コロナ禍で里帰りできず不安になっている実習生には世話役をつけて、生活面でも面倒を見たり、相談に乗ったりなど、精神的に支えている会社もあります」(犬飼さん)

カギ② 給与・社会保険の整備

会社の利益を社員に還元

 大手ゼネコンに比べて会社としての収入が少ない地方の中小建設会社や専門工事会社では、従業員の給与アップに限界がある。

「まず、会社存続のためには会社の利益を社員に還元するという考え方にシフトチェンジする必要があります。そのためには原資となる利益を出すことが必要不可欠です。さらに、決算予測などを経営陣だけではなく、一般の従業員とも共有することをおすすめします。情報をオープンにし、従業員と一緒に利益を上げていく仕組みをつくると、社員のモチベーションアップに繋がるんです」(犬飼さん)
 では利益が上がったとして、従業員への還元は具体的にどのように行えばよいのだろうか。
「経営に余力が少ない場合、利益の分配は賞与で行うとよいでしょう」(澤田さん)

技能・経験にふさわしい処遇、待遇

 また、技能の向上や経験の蓄積に応じた給与アップの仕組みも欠かせない。

「各種技能に対する手当てをつける制度がおすすめです。始める際は法律的な問題が出てくるので社会労務士に入ってもらって制度設計しましょう」(澤田さん)
 技能の向上は資格を元に判定するのが公平で、誰もが納得するだろう。

「建設業界は施工管理技士やクレーン操縦などの公的資格が多いので、従業員に資格を取得するための研修を受けさせる、受験費用を会社が負担する、合格したら報奨金を出すなどの措置も有効です」(澤田さん)

カギ③ 生産性の向上

仕事のシームレス化がポイントとなる

 国交省は、減少する技術者を適切に活用・配置するため、生産性向上の体制を整えるよう推進している。

「現場で目指すべきは、仕事のシームレス化、従業員の多能工化です。さまざまな仕事をみんなでやるという考え方を浸透させ、個人の業務の幅を広げるように教育するのです。そのために異動やジョブローテーションを頻繁に行います。これができれば人材配置に余裕が生まれます」(澤田さん)

 実際に、経理などの間接部門の社員に技術を習得してもらい、事務所と現場の両方で活躍するケースが増えているという。間接部門と建設現場の両方の仕事ができる従業員が増えると、柔軟な人員配置が可能となり、結果、全体の労働時間の削減にも繋がるだろう。

多能工化を実現するとどのようなメリットが?

 このような多能工化に取り組んでいる下請メーカーでは、コロナ禍でも驚くべき変化が起きているという。
「多能工化の結果として、コロナ禍で全社員の30%を休ませているのに、問題なく業務が回っている事例があります。週休2日を確保できるとともに、さらに新しい分野の仕事にも挑戦しやすくなるのです」(澤田さん)
 業種や会社によっても異なるが、経理職は1カ月の間ですごく忙しいのは5日ほどである。だとすれば、残りの日数は経理以外の人手が足りていない部署に回せるのだ。
「最近、若手を中心に給料が減っても休みを増やしたい人が多いので、こういった体制づくりを実現できれば応募者数が増える可能性が高くなるでしょう」(澤田さん)

自社保有やICT機導入で効率アップが期待できる!

 建設や工事現場に欠かせない重機は数百万円から数千万円と高価なため、レンタルしている会社も多い。しかし生産性向上の観点から、これを見直すこともポイントだという。
「重機はリースと所有で生産性が大きく変わります。確かに重機は高価ですが、購入すれば10年以上は使えます。稼働率の高い重機を購入すれば、コロナ禍で減少している外国人労働者の穴埋めにもなりえます。そう考えると購入した方が経済的といえるかもしれません。国としても、稼働率の高い重機は自社で所有することを勧めています。いずれにせよ、この問題も経営者の判断次第ですね」(澤田さん)
 財務、資金的に難しいという建設会社は「ものづくり補助金」を利用すれば負担が少なくて済むので、検討してみてはいかがだろうか。

ICT建機の活用が好循環を生む

 現場での合理化を飛躍的に向上させる大きな武器といえばICT(情報通信技術) だろう。国も生産性向上を図るため、建設生産システムのあらゆる段階においてICTを活用するi-Constructionを推進している。
「実際にICT建機を採用することで作業効率を上げ、人手不足の中、工期短縮を実現している会社の事例は多数あります」(犬飼さん)
 しかしまだまだ「従来どおりの方法の方が効率的で変える必要はない」と考えている経営者も多いだろう。

「今はそれでいいかもしれませんが、ICTが普及した未来の市場を考えたらどうでしょうか。将来を見据え、目先のコストは度外視して、今のうちからi-Constructionに取り組んでいる経営者もいます」(犬飼さん)
 導入メリットは大きい。例えば、地域で初めてICT建機を導入したり、ノウハウを蓄積した会社として認識されれば、国交省が視察に訪れたり、地元メディアが取材に来たりと大きな宣伝効果となる。それが起爆剤となって受注が増えれば従業員への利益還元も可能になるし、優秀な入社志望者が増えるなど、好循環が生まれるだろう。
「未来のことを考えて、今なにに投資するか。経営者の手腕が問われている時代といえます」(犬飼さん)
 人手不足解決に向けて、これからどのように舵を切っていけばよいのか。今回ご紹介した3つのカギから、経営戦略のヒントが見つかるはずだ。